笑っちゃうほど地味なある街の、駅前の大通りから裏通りをちょっと入って、線路沿いに少し歩いたところ……。そこに「おもひで屋」があります。
「おもひで屋」はレンタル屋。でも、店主を含めて、かなり変わったお店です。
松田は学生時代の恋人だった里子の葬儀に行く途中、初めて訪れたこの街でハトのふんに上着を汚されて困っていたところ、偶然この店を見つけて、のれんをくぐった。
大学の卒業間近に里子から別れを切り出された松田は、その悔しさをバネに仕事に励み、今では故郷に大きな不動産会社を経営するまでになった。それでも、里子への想いはずっと残っていた。
そんなある夜、一人で会社に残り仕事をしていたところ、突然里子の夫から電話があった。
「妻が二日前に亡くなった」と……。
「おもひで屋」の第1弾。
あなたは、かつて心から愛した人の死をどう受け止めますか……。
恋しいですか……。
この店の店主は、年が二十代半ば。ボサボサ頭で、黒縁メガネをかけた、見るからに草食系のやせ細った男子です。そして、レンタル料金は、不思議な時代物のさおばかりではかって決めます。
その店に松田が偶然に訪れて、上着を借りるのですが、なぜかしっくりして着心地もいい。それに不思議なことに、ポケットには見覚えのある封筒と上着の内側には松田の文字のししゅうが……。
そして、松田は里子の夫から真実を聞かされます。
5141円……。松田が里子から借りたお金です。コイシイ(恋しい)と読みます。
2012年完成。
「おもひで屋1」の一部がwookで試し読みできます。
ものすごい吹雪の中、ある若い男が大きな麻のずた袋を引きずりながら、雪山を登っています。
そして、山小屋(?)までたどり着くと、中に入り、そのままそこで眠りにつきました。
次の日から男は山小屋を解体し、その隣りに雪のいえを作り、暮らし始めます。ある覚悟を秘めて。
その後、男のところには、人懐こい森の動物たちがやってきます。
うさぎ、たぬき、クマ、そして雪女までも……。
亡くなった親友との思い出の山小屋にたどり着いた男。
当初男亡の表情は硬くて暗く、そしてある覚悟をもっていました。
ところが、男のところにやってくる動物たちは、そんな男の心など知る由もありません。
勝手に仲間だと思い込み、頼みごとをしたり、スキー大会にも参加させたり。
やがて、笑顔を取り戻した男の心にも変化が表れます。
これは、童話の要素に大人の話を加えた作品です。
「おとな文学」といった感じで。
2010年完成。
「雪のいえ」の一部がwookで試し読みできます。
結婚式の二週間前、幼い頃に生き別れた父が亡くなった。
父に対して、ずっと誤解して生きてきた私だったが、叔父から真実を聞かされて涙する。
その父が結婚式のスピーチをテープに録音して、ひそかに練習していたことを知り、私はどうしてもそのメッセージが聞きたくて探し始めた。
しかし、それはすでに処分されていて……。
そして、なんとか手掛かりを見つけて、一風変わったレンタル屋にやってきた。
そう。「おもひで屋」に。
「おもひで屋」の第2弾。
あなたはその人を許せますか……。
探しているものは、なんでも見つかるという不思議なお店「おもひで屋」。
今回も店に訪れたお客さんと一風変わった草食系男子の店主との、かみ合わないやりとり。
でも、それにはちゃんと訳があるんです。
物語の中で、ラジオ・ヘヴンのDJタツキが登場します。
これは「天国のDJ」という小説の登場人物です。まだ未発表ですが。
2012年完成。
「おもひで屋2」の一部がwookで試し読みできます。
男はかつてヨーロッパで活躍した有名なピアニストでした。
特に、彼が弾くショパンの「別れの曲」は聴く人誰もが一瞬で涙するほどでした。
しかし、第2次世界大戦中、ドイツの憲兵に右手を撃たれてから、彼の右手は動かなくなり、二度とピアノが弾けなくなりました。
戦後、酒浸りの毎日をおくり、すっかりすさんだ生活をしていた男でしたが、ある夜、一匹のねずみと出会って……。
男はねずみと出会って、奇跡の復活を遂げます。
作品中の「別れの曲」はラストを含めて、この物語にピタッとはまっている気がします。
これも、おとな文学です。
普段書きものをしている時は音楽が欠かせません。
そのため、カフェで書きものをしている時が多いです。
心地よい音楽が常に流れていますから。
で、ついおかわりをして、長居してしまいます。
優しく笑顔で接してくれる店員さんに甘えて……。
カフェのみなさま、いつもご迷惑かけてすみません……。
2013年完成。
「あるピアニストの右手」の一部がwookで試し読みできます。
ボクは無名のマジシャン。
でも、才能はあるはずなんだ。
だって、ボクのパパは、世界的なマジシャンのミスティー・クロサワだから。
でも、そのパパも幼い頃に他界して、ずっとボクのそばにいてくれた執事のじいも亡くなった。
心の支えを失って、すっかり自堕落な生活をおくっていたボクは、ある日、地下室に入って、壁にある6つのドアの1つを開けた。
すると、透明な犬が現れて……。
無名なのに自尊心が強い「ボク」と別世界からやってきた透明な犬との物語。
なぜ透明なのかは、読んでもらえればわかります。
テーマは「選択」。
「ああしていればよかった」とか、「もしもああしていれば、今頃どうなっていただろう」とか、気が滅入っている時などは、ついそんなことを考えてしまうものです。
でも、変えるにしろ変えないにしろ、今できることは現状を頑張るしかない。
と、自分に言い聞かせています、はい。
2013年完成。
「透明な犬」の一部がwookで試し読みできます。
みつばちは、花から花へ手紙を配達する郵便屋さんです。
時々、その手紙がラブレターだったりするので、「お花のキューピット」とも呼ばれています。
そして、文通を繰り返すことで、花と花は受粉し、きれいな花を咲かせたり、たくさんの果実を実らせたりするのです。
ある日のこと、みつばちピッチが青空を飛んでいると、そよ風さんがやってきて、「タンポポ山のりんごのモクさんが大事な用事がある」と告げました。
しかし、その用事というのが、一度入ったら二度と出られないというゆうれいの森にいる幼なじみのアキさんに手紙を届けてほしいというものでした。
みつばちピッチの勇気を描いた作品。
勇気は信じる心、大切な仲間を想う気持ちから生まれます。
これは珍しい(?)正真正銘の児童文学です。
2002年完成。
「みつばちピッチの冒険」の一部がwookで試し読みできます。
一人の若い女性が、やっとのことで「おもひで屋」にやってくると、いつもの草食系男子の店主が柱時計を見ながら、狭い店を右往左往していた。
そして、その店主はこともあろうに、客である女性に店番を強引に頼んで、店を出てしまった。
残された女性は、ただひたすらに「お客さんが来ませんように……」と祈るのですが、祖父の蓄音機を探している青年が現れて……。
クスッ、ホロッの「おもひで屋」の第3弾。
遠い記憶、あなたが再び逢ってみたい思い出の品は何ですか……。
今回は、店主が店番をお客さんに任せていなくなることから始まります。
そして、その女性客が同じく客として訪れた青年とのやりとりで物語が進展していきます。
女性と亡くなった母とレコードの思い出。
青年と祖父と蓄音機の思い出。
そして、店主がいなくなった理由。
それらが最後に結びつきます。
今回は3人称で書きました。
2013年完成。
「おもひで屋3」の一部がwookで試し読みできます。
日本の、ある町が財政再建団体になりました。会社で言うと、倒産です。「地方の時代」と言われて、積極的にリゾート開発したのが裏目に出たのです。
そして、前町長が病死し、新町長になったのが、ウォール街でヘッジファンドをしていた46歳の三宅でした。
しかし、この新町長はアイディアマンですが、かなりの毒舌で、特に高齢者には容赦ない批判を浴びせます。
当然、住民は激しく反発。
そして、三宅と住民との長くて熱くて激しい闘いが始まります。
これは珍しく地方政治のお話。
政治のみならず、全てのことにはプラスとマイナスがあると思います。
だからこそ、一方的に偏った見方に左右されて「賛成」「反対」ではなくて、両方を踏まえて、自ら責任をもって判断しなければなりません。
新町長の三宅とこの町の縁。
そして、前町長との関係。
ラストは三宅と住民が一つになります。
本来はもっと長い作品。その短縮版です。
2015年完成。
「どこかの町~短縮版~」の一部がwookで試し読みできます。