やられた……。あの少年だ……。
中央アフリカの某国の空港ロビーで、私は呆然と立ち尽くした。
当時、世界中の危険な紛争地域を漂流していた戦場カメラマンの私がこの地を訪れたのは、仕事が目的ではなかった。
親友でジャーナリストのケンがこの地で行方不明となったので、その手掛かりが欲しかったからだ。
この国は長らく内戦が続いていたがそれも終わり、国連の監視団の下、新大統領も決まり、民主化の道を歩んでいるように見えたが、ケンはそれに疑問を抱き、この国にやってきたのだ。
しかし、到着口を抜けてロビーを歩いていたところ、よりによって地元の少年に大切なカメラを騙し取られてしまった。
「ハハハハハ、それは災難でしたね」
迎えの車の中、ガイド役のジャンは他人事のように笑っていたが、その眼は鋭く、なぜか私を警戒しているようだった。
翌日から私は、ジャンと共に取材活動を行おうとしたところ、あちこちでジャンから「待った」がかかった。
不信感を抱いた私は、ある夜、ホテルを抜け出して一人で歓楽街を歩き回り、ケンの手掛かりを探した。
そして、そこで偶然にあの少年と出会った。私から」カメラを騙し取った少年だ。
私は少年を捕まえ、スラム地にある少年の住居に行ってカメラを取り返した。
少年の名前はヤオ。そして、その隣りには妹のマリーがずっと寄り添っていた。
マリーは父親の死のショックで口がきけず、父の形見の銃で造った人形を抱いていた。
やがて、その兄妹と心を通わせた私は、2人と行動を共にして、この国の真実を暴くべく、無我夢中でシャッターを切った。
それなのに……。
私は生涯、この兄妹を忘れることはないだろう……。
この作品は、かつて戦場カメラマンだった男が、10年前の辛い思い出を回想するシーンから始まります。
以前、テレビで大英博物館(?)に展示してある「銃でできた人形」を見たのが、この作品を作るきっかけでした。
何とか自分なりのストーリーを作ってみたい、と……。
我ながら硬派な作品だと思います。
そして、表紙もシンプルで硬派に仕上げた(?)つもりです。
2015年作。