大人のための小さな物語0       (2017年5月出版)

茶碗の家族

 赤と青の夫婦茶碗。

 2つはいつも仲良く。

 いつも一緒。

 隣りに座って。

 いつもニコニコ。

 ある日、とってもかわいらしい小さな黄色い茶碗が加わりました。

 そして、桃色の小さな茶碗も加わって……。

 4つの茶碗はいつも一緒。

 いつも仲良し。

 ところが、ある日……。


 とっても短い物語。

 お茶碗は少なくても家族分はありますよねえ。

 そんなお茶碗と人間の家族を重ね合わせたお話です。

 1つのお茶碗を使い合うお話もありますが、今回はこっち。

 短いですが、ほのぼのする作品です。

 2015年作。

奇跡の1枚

 カメラマンのジンさんは、今日も愛用のカメラを持って、近所をお散歩中。

 ジンさんがカメラを向けるものは、誰もがよく目にするありふれたものばかりですが、なぜかジンさんが撮ると、今まで見たことのないような写真になるので、ジンさんの写真は「奇跡の1枚」と呼ばれています。

 今の時期は、とっても桜が見頃。

 公園にあるたくさんの桜の木も満開に咲いています。

 ふと、公園の隅っこに立っている桜の木で、1つだけぽつんと寂し気にうつむいている花びらを見つけてました。

「どうしたの?」

 ジンさんは思わずそう尋ねてみると……。


 この作品は今年(2017)の4月に作りました。

 ちょうど前作の「がんばれ本舗」の表紙を作ろうと、公園の桜をカメラで撮っていた時にお話を思いつきました。

 この作品は最後が2パターンありますが、迷って迷ってこっちの方です。

 最後は自分の作品らしいなあと思います。

 2017年作。

白い窓

 真っ暗な部屋の中。

 僕はずっとここにいる。

 もうどれくらいいるのか、わからない。

 だって、ここはいつも夜だから。

 いつからいるのかも、わからない。

 なぜいるのかも。

 でも、少なくても僕は自分の意志でここに来た。

 そして、ここにいる。

 きっとこれからも、僕はずっとここにいることだろう。

 いつまでいるのか、わからないが。

 多分、このままずっと……。


 この作品は単に「引きこもり」がテーマではありません。

 「真っ暗な部屋」は自分の心だったり、友人の「クラヤミ」は心の弱さだったりします。

 これは決して特別なことではなく、きっと誰もが経験したり、今もなお悩んでいたりすることだと思います。 

 2017年作。

たった1分間だけのラジオ番組1

 日曜日の午後11時59分。

 ある街の小さなFM局では、毎週1回、たった1分間だけのラジオ番組が放送されます。

 たった1分だけ。

 番組名は「心を紡ぐ」。

 さて、今回はどんな放送になるのでしょう……。


 このシリーズは3本続けて書きました。

 全て内容的に重いお話です。

 でも、どうしていいのかわからなくて、もうどうしようもない状況に、ふとラジオから優しい言葉がかかったら……。

 別にラジオじゃなくても、誰かに思いもよらない心揺さぶる言葉をかけられたら……。

 勿論、それを受け止めるこちら側の心も大切ですが。

 それが物語を作るヒントになりました。

 2015年作。

What  a  happy  day!

 真冬の、ある夜遅く。

 ニューヨークの地下鉄の、ひっそりと静まり返った構内に、どこからともなく1人の黒人の老人が車椅子で現れた。

 老人は80代の男性で、サングラスをかけ、すっかり目が見えない様子だ。

 その老人は車椅子を止めて、辺りの様子を耳を澄ませてうかがうと、ニヤッと微笑み、大きな咳払いを1つして、突然大声で歌い出した。

 What  a  happy  day! What  a  happy  day! I  can  sing  a  song  today~.  


 どんなに地位や名誉があっても、お金があっても、今の自分が楽しくなかったら、人生において何の意味もない……。

 かなり昔に読んだ本にそう書いてあったのを思い出して書きました。

 本の題名も、著者も覚えていませんが。 

 ぜひそういう生き方をしたいものです。

 老人に促されて、多くの人達が「今」に感謝して歌い続けます。

 普段は「今」に感謝するって、あまりないですけどね。

 でも、大切なことです。

 2時間くらいで完成して、結構気に入っている作品です。

 2017年作。