透明な犬              (2018年11月出版)

 人は常に未来を選択して生きている。

 毎日毎日。

 一瞬一瞬。

 選んだ人生。

 選ばなかった人生。

 そして、ボクらは選択したそれぞれの人生で精一杯生きている。

 ボクは無名のマジシャン。

 でも、才能はあるはずなんだ。

 だって、ボクのパパは、アメリカのラスベガスでも活躍した世界的マジシャンのミスティー・クロサワだから。

 でも、パパは20年前に病気で亡くなった。

 そして、その後大邸宅で執事のじいと2人で暮らしていたが、そのじいも半年前に亡くなった。

 いつもわがままをきいてくれて、優しく励まし続けたじいがいなくなって、ボクは一日中家に閉じこもって、テレビを観るか、寝るか、食べるかのの、すっかり自堕落な生活を送った。

 ある日、時間を持て余したボクは、じいの部屋の荷物を整理した。

 そして、机の引き出しから、7つの大きな古いカギを見つけた。

 カギの下には紙があって、「別世界のカギ」と書いてあった。

 ボクは家中のドアのカギ穴に差し込んで、ついに地下室に通じるドアを開けた。

 そこにはパパのステージ衣装やマジックの道具が収められた部屋で、じいにも絶対に入ってはいけないと言われ続けた場所だ。

 そして、なぜか壁には6つのドアがあった。

 ボクは恐る恐るそのうちの1つのカギ穴にカギを差し込んで、ドアを開けた。

 すると、突然ドアの向こうから得体の知れない大きな空気のかたまりが吹いてきて、ボクは吹き飛ばされた。

 そして、透明な犬・ベロと出会った。

 すると、透明な犬が現れて……。


 無名なのに自尊心が強い「ボク」と別世界からやってきた透明な犬との物語。

 なぜ透明なのかは、読んでもらえればわかります。

 

 テーマは「選択」。

 「ああしていればよかった」とか、「もしもああしていれば、今頃どうなっていただろう」とか、気が滅入っている時などは、ついそんなことを考えてしまうものです。

 でも、変えるにしろ変えないにしろ、今できることは現状を頑張るしかない。

 と、いつも自分に言い聞かせています、はい。 

 2013年完成。