じっちゃんのプレイボール    (2022年5月出版)

 かつて朝日高校野球部の監督で、今年73歳となる大西良治は、残りの人生の最後の集大成として、日々を奔走していた。

 良治は昭和17年の旧制朝日中と朝日三中の試合の再開を計画していた。試合は9回表、朝日中の攻撃で、2アウト満塁。バッターボックスに良治が立った時、アメリカ軍機が上空を飛行したため、中断されたままだった。

 そして、戦死した仲間や戦後亡くなった仲間のためにも、今現在生き残った者達だけで、再びユニホームを着て、グラウンドに立ちたいと思った。

 良治は末期ガンだった。だからこそ、生きている間にこの計画を実行したかった。

 そして、まずは旧制中の名簿で仲間に連絡をとったり、全国紙の新聞に広告を掲載したりして、全国に散らばってかつての仲間を募ろうとした。

 そんな良治の最大の悩みは、孫の野村純のことだった。純は朝日高校の野球部のエースだった。素質は素晴らしいのだが、スタンドプレーが目立ち、短気で自分の感情を抑えられない性格だった。

 そして、案の定、秋の県予選の大会準決勝の試合で、味方のエラーがきっかけで試合に負けると、監督の門倉に練習態度を厳しく𠮟責されて、怒りのままグラウンドを去った。

 ある日、良治の元にかつて良治の片思いの相手だった藤原陽子から連絡があった。陽子はこの地域最大の企業である藤原物産を

一代で築いた実業家だった。現在は一線から退いているものの、未だに影響力は強かった。

 そして、その陽子の亡き夫だったのが、朝日三中の野球部のエースで、良治のライバルでもあった藤原大志だった。良治と大志は元神風特攻隊で、同じ前線基地に配属された仲間でもあった。

 陽子と再会した良治は遠い過去を辿りながら、永遠の友である大志を想った……。


 この作品は以前書いたシナリオを小説化したものです。

 かなり古い作品なので、野球のボールカウントも今とは違いますし、ケータイやスマホも登場しません。

 でも、敢えて時代設定はそのままにしました。

 その方がいいでしょう。

 きっといいと思います。

 何でもかんでも今に合わせるのは、ちょっと……。ねえ……。

 作品を書いた時の状況は覚えていませんが、このシナリオ、あちこちに応募しましたが、あえなく落選しました。

 でも、自分としては結構気に入っていましたが(まっ、書いた作品は全部気に入っていますが)。

 1999年作。