あめ屋4              (2022年1月出版)

 今日もメールさえくれなかった……。

 7月7日、仕事帰りのバスの中、ななさんはスマホを見ながら、がっかりした様子で深い溜め息をつきました。

 ななさんには大切な彼氏がいます。名前はワタルさん。付き合って、もうかれこれ5年になります。口には出しませんが、ななさんは付き合い始めた頃から結婚を意識していましたし、いずれはそうなると思っていました。

「俺、今度仕事で海外に行くことになったから」

 えっ……。

 半年前のある休日、突然ワタルさんは2人の行きつけの食堂で、大好きなカツ丼を食べながら、あっけらかんとした表情でななさんに告げました。

 ワタルさんは国の支援事業の一環で、東南アジアの電気が通っていない小さな島に電気を通す計画に参加すると言いました。期間は半年ほどだ、とも。

 ワタルさんは子供の頃に東日本大震災で被災者になり、避難所で何日間も夜はろうそくの小さな明かりで生活をしていた経験があり、いつかこうした仕事をしたかったと、真剣な表情でななさんに語りました。

 ななさんはワタルさんの熱い想いを知り、遠距離恋愛を受け入れました。

 ワタルさんが現地に赴任し、最初の数ヶ月間は毎日のように電話かメールがありましたが、通信状況がとても悪い場所で仕事をしているせいか、仕事が忙しいせいか、ここ2,3ヶ月はななさんから連絡しても、ほとんど返事がありません。ワタルさんからの連絡待ちの毎日です。

 今日も予想通り返事がもらえず、仕事を終えて、がっかりしたままの帰宅途中でした。

 ふと、普段下りない停留所でバスを下りて歩いていると、目の前にログハウス風のお店が見えました。

 あめ屋。

 ななさんはまるでそれが自然のことのように、入り口のドアを開けました……。


 今年最初の出版は「あめ屋4」です。

 しかも、電子書籍100冊目の出版です(3冊は只今出版していませんが)。

 パチパチパチ……。

 また、絵はみずきさん。

 目の前で、たくさんのてるてる坊主をスラスラと楽しそうに微笑みながら描いてくれました。

 やっぱすごい。

 何事も楽しそうにするところ。

 躊躇なく描くところ。

 うまく描こうとか、そんな気負いが全くないところ。

 そして、お話の世界観に絵がマッチしているところ。

 そういう絵が描けるところ。

 彼女は今年新たな世界に旅立ちますが、思いっきり彼女らしく頑張ってほしいと思います。

 時々は絵も描いてね。

 お願い。

 2021年作。