娘が亡くなった。
まだ高校2年生だ。自宅と高校のあるA市とはかなり離れたB市の駅前通りを歩いていたところ、危険ドラッグでイカれた男が運転する車によって、娘の尊い命は奪われた。
2年前にくも膜下出血で愛する妻を亡くしてからというもの、娘は私のことを本当に支え続けてくれた。心を患った私のために、大好きな部活を辞めて、できるだけ私と一緒に過ごしてくれた。
そんな娘の献身的な支えと穏やかな優しい時間により、私は再び自分自身を取り戻すことができるようになった。
娘とはいろんな話をした。中でも特に娘が興味を示した話が、私と妻のなれ初めとプロポーズの話だった。
都内のビアホールのようなところで、チークタイムで「アマポーラ」が流れて踊っている中、タキシードを着た私が白いドレスの妻にプロポーズした話を。
映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」でロバート・デ・ニーロ扮する男性が愛する女性と高級レストランで踊るシーンが大好きだった妻は、とても喜んでくれた。
そして、私達は一緒になり、娘が生まれた。
それなのに……。
ある日、亡くなった娘から期日指定で招待状が届いた。
そこには、B市のレストラン「潮風」で、私と妻の結婚記念日の食事会が行われると記してあった。
そして、今の私の寸法に仕立て直されたタキシードまで届けられた。
私は娘の謎めいた問い掛けに戸惑いながらも、当日「潮風」に向かった……。
この作品は、娘を亡くした父親の辛くて切ない物語ですが、ラストシーンは気に入ってもらえると思います。
でも、きっと、いや多分娘をもつ父親の方々は最後まで読む気持ちになれないかもしれないとも思いますが……。
映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」とエンリオ・モリコーネの音楽が好きで、ぜひそれをモチーフにした物語を作りたくて書いた作品です。
絵はさいとうのりえさんに描いてもらいました。とても素敵な絵です。
2015年作。