ここは自殺の名所と呼ばれる海が見渡せる険しい岸壁。
タミさんは50代の女性で、いつもここにワゴン車を改造した屋台のラーメン屋を開き、自殺しに来た人達に味噌ラーメンを振る舞って、自殺を思い留まらせてきた。
そんなタミさんにも暗い過去があった。
5年前、大事な一人息子がこの地で自ら命を絶った。
そして、タミさん自身もその悲しみに耐えられず、ここで息子と同じ道をたどろうとしたのだ。
しかし、たまたまここに停まっていた屋台のラーメン屋のマスターに呼び止められ、おいしい味噌ラーメンをご馳走になり、死のうという気持ちがなくなった。
以来、タミさんは行方不明になったマスターに代わり、ここに訪れた人達にこうして味噌ラーメンを食べさせているのだった。
しかし、なぜかあの日以来、過去の記憶の多くを失ってしまった。
そう、ここで味噌ラーメンを食べたあの時から……。
誰しも「死にたい」と、一度は思ったことがあるはず。
でも、さすがに「死のう」とまでは思わない。
それでもやはり、自ら命を絶つ人もたくさんいるわけで……。
そして、そのことは決して軽視してはいけなくて……。
知らんぷりもしてはいけない。
今まで結構こうした「自殺」をテーマにした作品を書いてきました。
それしかできませんから。
これもその1つです。
ただ、テーマがテーマだけに心を込めて、真剣に書くことを心掛けています。
当初は、もっとオドオドしいタイトルでしたが、表紙を作って変えました。
こんなこと初めてです。
2016年作。