味噌ラーメンでいい?        (2017年10月出版)

 ここは自殺の名所と呼ばれる海が見渡せる険しい岸壁。

 タミさんは50代の女性で、いつもここにワゴン車を改造した屋台のラーメン屋を開き、自殺しに来た人達に味噌ラーメンを振る舞って、自殺を思い留まらせてきた。

 そんなタミさんにも暗い過去があった。

 5年前、大事な一人息子がこの地で自ら命を絶った。

 そして、タミさん自身もその悲しみに耐えられず、ここで息子と同じ道をたどろうとしたのだ。

 しかし、たまたまここに停まっていた屋台のラーメン屋のマスターに呼び止められ、おいしい味噌ラーメンをご馳走になり、死のうという気持ちがなくなった。

 以来、タミさんは行方不明になったマスターに代わり、ここに訪れた人達にこうして味噌ラーメンを食べさせているのだった。

 しかし、なぜかあの日以来、過去の記憶の多くを失ってしまった。

 そう、ここで味噌ラーメンを食べたあの時から……。


 誰しも「死にたい」と、一度は思ったことがあるはず。

 でも、さすがに「死のう」とまでは思わない。

 それでもやはり、自ら命を絶つ人もたくさんいるわけで……。

 そして、そのことは決して軽視してはいけなくて……。

 知らんぷりもしてはいけない。

 今まで結構こうした「自殺」をテーマにした作品を書いてきました。

 それしかできませんから。

 これもその1つです。

 ただ、テーマがテーマだけに心を込めて、真剣に書くことを心掛けています。

 

 当初は、もっとオドオドしいタイトルでしたが、表紙を作って変えました。

 こんなこと初めてです。

 2016年作。