35歳独身でピアノの調律師である京一さんは、岩手県の三陸海岸の砂浜を1人で歩いていました。
辺りを見回して歩いていると、全く人の気配がなく、物静かで空虚な日常がずっと続いているかのようです。
ここは数年前に東日本大震災により、津波で全てを失った場所です。
思い出深い建物も。
賑やかな人通りも。
日々の何気ない暮らしも。
生活も。
営みも。
温もりも。
そして、多くの命までもが。
やっぱり、ないなあ……。
海鳥や海風が静かに漂っている中、京一さんは友達の小学校5年生の百合ちゃんに頼まれて、貝殻を拾いにやってきたのですが、なかなか見つかりません。
京一さんがこの地を訪れた1番の目的は、かつて勤めていた工房の先輩である小滝さんの依頼によるものでした。
津波で流されて、何かと見つかったパーツで組み立てた古いピアノが、なぜか以前のような音が出ないので診てほしい……。
先輩の切実な願いを受けて、この地にやってきた京一さんでしたが、その理由というのが信じられないことでして……。
そして、小滝さんのピアノに対する想いも、哀しいくらいに特別なものでした……。
この作品は以前出版した「ぴあの」の続編。
昨年、急に思い立って2編を書き上げました。
本当に急に思い立って、物語が頭に浮かんで。
久し振りに京一さんに会えたのも嬉しかったです。
実は2編のうち、最後に書いた作品を今回「ぴあの2」として出版しました。
やはり時期が時期だけに、東日本大震災を題材にした作品を発表しておきたくて。
あの時の気持ちを忘れたくなくて。
最初に書いたのは「ぴあの3」として、いずれ出版します。
2020年作。