人間はね、いずれ死ぬんです。
そのことだけは間違いない。
だから、死ぬのも生まれるのも決して特別なことじゃないんだ。
自然の中で生活していると、そのことがよくわかります。
この山の中でも、毎日のように新しい命が生まれ、そして消えていく。
勿論、せっかくの命、最後まで大切に使い切るつもりです。
こう見えても、私は今幸せなんですよ。
誰がどう思おうとも。
……誰にもわかってもらえないと思いますけど。
でも、私は幸せです。
あなたは僕にこう告げてくれました。
あの嵐の夜、この小屋で一緒に過ごした時、あなたは若いだけで世間知らず、人知らずの僕をこう諭してくれました。
僕は決してあなたのことを忘れないでしょう。
この命が続く限り。
そして、あなたと同様に、この命を最後の最後まで使い切りたいと思います。
でも、これだけははっきりと言っておきます。
やっぱり僕は、あなたの生き方には賛成できません。
あなたの生き方は哀しすぎます。
それだけは言いたくて。
どうしても。
どうしても……。
嵐の中、偶然に立ち寄った古い山小屋で一生暮らしていくと決めた男。
そして、その男の唯一の望みは、夕焼け空の下、山頂にそびえ立つ虹色に輝く竜の形をした雲を見ることだった……。
この作品は自分の中では内容的にも、描かれている人物像的にもかなり珍しいと思います。
仙人というか、世捨て人というか。
欲も無く、自然の中に身を任せて、全てを受け入れて、その日その日を可能な限り精一杯笑顔を浮かべて生きる真っ白な人物。
日々の生活に追われ、何となくそんな人物に憧れて書いた作品。
いつか2,3日でいいから、そんな生活をしてみたいなあ。
2019年作。