「いやァ、ばあさん。久し振りに今日は酔っぱらったよ」
夜、村外れの小さな墓地。
ほろ酔い加減のおじいさんが愚痴を言う相手は、やっぱりおばあさんでした。
でも、そのおばあさんは……。
冷害のこと。
子供のこと。
田んぼや畑のこと。
そして、自分自身のこと。
おじいさんだっていろんな不満があるでしょう。
でも、やはりそれを受けとめて聞いてくれるのは、おばあさんしかいないと思います。
そんなお話です。
1998年(?)完成。
「母さんのタンスから、面白いものを見つけた」
母が亡くなって2ヶ月後のこと、一人暮らしの父からの電話で実家に戻った私。
「これだよ、面白いものは」
父がそう言ってテーブルに並べたのは10個の貯金箱だった。
犬、ねこ、たぬき、くま、きつね、うさぎ、パンダ……。
そして、その中には色とりどりの様々な形をしたボタンがあった……。
母親が娘のために洋服を作ってあげていたというお話。
そして、着なくなった服のボタンを大事な思い出として、貯金箱に入れていた。
やがて、娘は成長するにつれて、母親の服を着なくなります。
そして、今度は母となった娘が自分の子供のために服を作っている……。
私の母も昔はよく編み物をして、家族のセーターとかを作っていました。
そんなことを思い出して書きました。
2011年完成。
亡くなった人は、三途の川の橋を渡り天国に行く前に、「パラダイス・シアター」で自分の人生の映画を観るといいます。
自分の人生を受け入れて、新たな世界に旅立つために。
しかし、自殺をした男が映画を観終わって橋を渡ろうとした時に、突然姿を現したのは、男の一人息子だった……。
亡くなる直前、よく自分の人生が一瞬で走馬灯のように流れると聞いたことがあります。
そして、三途の川を渡るとも。
本当かどうかは、体験したことがないのでわかりませんが。
でも、その話が作品を作るヒントでした。
主人公の男は子供と最後の短い時間を過ごします。
そこで後悔し、涙ながらにメッセージを残します。
日本は年間に約3万人が自殺します(ここ数年は減っているものの、それでも2万人以上です)。
そして、中高年が多いとも。
残念ですが事実です。
だからこそ「書かなければ」と思いましたし、「軽い気持ちで書いてはいけない」とも思いました。
そして、先日も自殺願望の人が忌まわしい事件に巻き込まれました。
まだ裁判が行われていないので、詳細は明らかになっていませんが。
とにかく辛い事件でした。
亡くなられた方々のご冥福をお祈り申し上げます。
2001年完成。