都心の古い10階建ての雑居ビルの屋上に、ひっそりとたたずんで営業している喫茶店があります。
「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」
この店の名前です。
営業時間は夜景が見える午後6時から10時まで。
とても短いですが、ここから見える都心の夜景は最高です。
店内はカウンター席だけで、5人ほどで満席になります。
メニューは、おいしいコーヒーとハチミツの上にあずきを乗せたトーストのみ。
そして、狭い店内には、たくさんのジャズのLPレコードと大きな招きネコの形をした貯金箱、真空管を使った年代物の高価なアンプ式のステレオ。
そのレコードプレーヤーからは、1日1枚、決まったレコードが何度もかかります。
ここへ来る客のほとんどもそれが目当てで、静かにコーヒーを飲みながら、真空管ならではの深くて柔らかで温かな音を聴いて、満足した様子で帰っていきます。
この店で唯一バイトして働いているのが、高校1年生のゆりなちゃん。
ただ、ちょっと(?)変わった子でして……。
そして、「シショウ」と呼ばれる縞模様で太っちょのネコもいます。
いつもステレオ近くの特等席で寝てばかりいます。
さて、どうしたものか……。
午後8時を半分過ぎた頃、店に1人の男性が現れました。
ショーさんは70代で、ジャズ・ミュージシャンです。
普段は世界中で演奏活動をしていますが、かつて愛した唯一の女性の葬儀のため、一時帰国しました。
そして、悩みながら、たまたまこの辺りを歩いていたところ、フラッと店に立ち寄ったのです。
そんなショーを迎えたのが、ゆりなちゃんとシショウとマイルス・デイヴィスの「枯葉」でした……。
この作品もジャズにまつわる物語です。
しかも、舞台はレコードを流すジャズ喫茶。
LPレコード、真空管のアンプ式のステレオ……。
もう「令和」だというのに、「昭和」感たっぷりですねえ。
このシリーズは既に2年前に3作品が完成しています。
毎回ジャズの名盤にまつわるお話で、今回はマイルス・デイヴィスの「枯葉」。
スタンダードなナンバーなので、きっとどこかで一度は聴いたことがあると思います。
ぜひ聴きながら読んでほしいと思います。
2017年作。