きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶1 (2019年5月出版)

 都心の古い10階建ての雑居ビルの屋上に、ひっそりとたたずんで営業している喫茶店があります。

 「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」

 この店の名前です。

 営業時間は夜景が見える午後6時から10時まで。

 とても短いですが、ここから見える都心の夜景は最高です。

 店内はカウンター席だけで、5人ほどで満席になります。

 メニューは、おいしいコーヒーとハチミツの上にあずきを乗せたトーストのみ。

 そして、狭い店内には、たくさんのジャズのLPレコードと大きな招きネコの形をした貯金箱、真空管を使った年代物の高価なアンプ式のステレオ。

 そのレコードプレーヤーからは、1日1枚、決まったレコードが何度もかかります。

 ここへ来る客のほとんどもそれが目当てで、静かにコーヒーを飲みながら、真空管ならではの深くて柔らかで温かな音を聴いて、満足した様子で帰っていきます。

 この店で唯一バイトして働いているのが、高校1年生のゆりなちゃん。

 ただ、ちょっと(?)変わった子でして……。

 そして、「シショウ」と呼ばれる縞模様で太っちょのネコもいます。

 いつもステレオ近くの特等席で寝てばかりいます。

 

 さて、どうしたものか……。

 午後8時を半分過ぎた頃、店に1人の男性が現れました。

 ショーさんは70代で、ジャズ・ミュージシャンです。

 普段は世界中で演奏活動をしていますが、かつて愛した唯一の女性の葬儀のため、一時帰国しました。

 そして、悩みながら、たまたまこの辺りを歩いていたところ、フラッと店に立ち寄ったのです。

 そんなショーを迎えたのが、ゆりなちゃんとシショウとマイルス・デイヴィスの「枯葉」でした……。


 この作品もジャズにまつわる物語です。

 しかも、舞台はレコードを流すジャズ喫茶。

 LPレコード、真空管のアンプ式のステレオ……。

 もう「令和」だというのに、「昭和」感たっぷりですねえ。

 このシリーズは既に2年前に3作品が完成しています。

 毎回ジャズの名盤にまつわるお話で、今回はマイルス・デイヴィスの「枯葉」。

 スタンダードなナンバーなので、きっとどこかで一度は聴いたことがあると思います。

 ぜひ聴きながら読んでほしいと思います。 

 2017年作。