きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶3(2019年9月出版)

「シショウ、どうしましょう。外は寒いです。もうブルブルですゥ~」

 あともうすぐでクリスマスイヴになる、ある夜のことです。

 「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」でバイト中の女子高生・ゆりなちゃんは、店の中から窓の外を覗くと、眉を八の字にして、今にも泣きそうな顔をしています。

「もう冬は嫌いですゥ~。いっそのこと、クマさんみたいに家の中で冬眠したいですゥ~」

 どうやら、ゆりなちゃん、寒さにはめっきり弱いようです。

 そんなゆりなちゃんを微笑ましく見守っているのが、3ケ月前から新たに常連になったキタさん。

 八百屋さんを営んでいて、40歳手前ですが、小太りで、すっかり髪の毛がありません。

 そして、今日はアン・バートンのレコードがかかるのを知って、かつて自分はジャズ・ミュージシャンでピアノを弾いていた過去を明かしました。

 最近、また当時の仲間と偶然に再会して、仕事の合間に一緒に練習している。

 そして、その仲間と同じ女性を愛して、対立して別れてしまった。

 その女性は今もジャズシンガーとして歌っている。

 でも、あれ以来会っていない、とも。

「……きっと素敵な女性だったんですね」

 ゆりなちゃんの何気ない一言に、キタさんは何となく心穏やかになりました。

 

 そして、キタさんが帰って1時間後のこと。

 ビルの下の階の飲み屋さんでお酒を飲んでいた1人の女性が、ふらっと店に立ち寄りました。

 女性は少し酔っていましたが、髪を掻き上げるその表情は妙に大人っぽくて、艶があって、色気があって、でも何だか寂し気でした。

 そんな女性に、ゆりなちゃんは今日何度目かのアン・バートンのレコードをかけました……。


 「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」の第3弾。

 何と今回のゆりなちゃんは、かつて一緒に演奏していが、今ではすっかり疎遠になってしまったジャズ・ミュージシャンの仲介をします。

 どうなることやら。

 そして、レコードはアン・バートンの「バラッド・アンド・バートン」。

 映画「いそしぎ」の主題歌がとても有名です。

 低音で、とても魅力的な声です。

 さて、このシリーズ、しばらくお休みです。

 第4弾はほぼ完成していますが。

 ゆりなちゃんと会えないのは少し残念です。

 自分が描いた主人公と会えなくなるのは、正直寂しいです。

 でも、再会した時はとても嬉しくなります。

 大丈夫か、ボク……。

 では、ゆりなちゃん、その時までバイバイ。 

 2017年作。