高校で現代国語を教える増田が自殺を図った。
3年前に妻を病気で亡くし、大切な一人娘で小学校6年生のユリが大量の睡眠薬を飲んで自殺したことで、親として同じ苦しみを味わなければと思った。せめて絶望と薄れゆく記憶をさまよいたかった。そうすれば、少しは娘の気持ちに近付けると思った。
そして、それが自殺に走らせた娘の罪滅ぼしと考えたのだ。
ユリ、ごめんな……。
父さんも、もうすぐそっちに行くから……。
だから、待っててくれ……。
しかし、目を開けると、増田は小高い丘の野原の上で大の字で寝転んでいた。
「お目覚めですか」
体を起こすと、そこには背広をまとった70代の初老の男性が立っていた。
そして、その男性は増田を高台にある、こじんまりした建物に連れていった。
そこは木造の古くて小さな校舎だった。そして、昭和初期の古い教室で、その初老の男性は咳払いを一つして、増田に説明した。
増田はまだ完全に死んでいない。下界では危篤中だ、と。ここは地上と天国の中間で、不幸にも幼くして亡くなった子供がちゃんと死を受け入れ、天国に導いてあげる学校だ、と。そして、あなたにその役目を担ってほしい、と。また。何か支障があってはいけないので、下界とは違う新しい顔を用意した、と。
「この小学校は何という名前でしょう」
増田のつまらない質問に、その男性は腕組みしながら、顔をゆがませ悩んだ後、満足そうに微笑んで答えた。
「そうだ。『天国の、ちょっと手前の小学校』というのはどうでしょう」
その後、増田はここで生徒に教え始めた。
そして、しばらくの間、平穏な毎日を過ごした。
ところが、ある日、1人の少女がこの学校に転校してきた。
その少女は増田の一人娘のユリだった……。
この作品は「自殺」がテーマ。
作品を書いた時期、結構自暴自棄になった主人公を描いた作品が多かったように思います。
はて、自分自身もそうだったっけ?
もうすっかり忘れてしまいましたが。
でも、そんなものかもしれませんね。
その時は「もうだめだ……」と絶望的に思って、でも、やっぱり自分でそれを乗り越えて、長い時間が経てば、「あれ、なんかあったっけかな?」くらいになる。
勿論、そうじゃない時もありますが。
で、結局身近な何かに励まされ、心癒され、立ち直る。
で、また落ち込む。
で、また立ち直る。
人生って、そんなことの繰り返しなのかもしれません。
よし、今日も頑張ろう。
将来、今の嫌なことも笑い話にできるように。
2012年作。