大人のための小さな物語18    (2023年7月出版)

桜の花びらの片思い

 桜の花びらは、じっと待っていました。

 じっとじっと。

 静かに。

 そして、心から。

 桜の花びらが待っているのは、人間の男性です。

 あれは2週間ほど前のことです。

 他の花びらがきれいで可愛らしい花を咲かせていましたが、この花びらはまだ小さなつぼみだったので、とても落ち込んでいました。

 そんな時、カメラを持った若い男性が現れ、つぼみを励まし、キスをしてくれたのです。

 そして、男性は、

「君が立派なレディになった頃、もう一度会いに来ます」

と言い、つぼみの写真を1枚撮って去っていきました。

 やがて、そんなふたりに奇跡が起こりました。


 数年前から、桜が好きになり、春になると、近所へ桜の撮影に出掛けます。

 そのせいか、桜の物語もいくつか書いてきました。

 そして、物語のアイディアも浮かびます。

 今回は優しい愛のファンタジーなお話が無性に書きたくなって、書き上げた次第です。

 そして、この作品、今年のゴールデンウイーク中に書きました。 

 2023年作。

 

ブラックコーヒー

「ブラックコーヒーの旨さがわからないようじゃ、まだまだ子供だな」

 私の店のカウンターで、私の淹れたコーヒーを口にして、顔をしわくちゃにさせた孫の君。

「こんな苦いの、全然おいしくないよ」

 口を尖らせる、負けず嫌いの君。

 私にそっくりだ。

 そんな君が病気になった。

 それも決して治らない病気。

「おじいちゃんのブラックコーヒーが飲みたい……」

 入院中の君から電話があった。

 私は急いで病院に駆け付けた……。 


 これは原稿用紙で4枚程度のとても短い作品。

 この時期、こういった短い作品をたくさん書いていました。

 またいつかこういう短い作品を書いてみたいです。

 ちなみに、個人的にはブラックコーヒーは毎日飲んでいて、もう中2の頃からずっとです。

 初めの頃は子供だったので、胃が痛くなって病院に行ったこともありましたが、それからは別に何のこともなく飲み続けています。

 バカ舌なので、好きな銘柄も味のこだわりも一切ありません。

 コーヒーなら何でもいいです。

 といいつつ、たった今もブラックコーヒーを飲みながら書いています。

 2005年作。

ボス猿

 平日の昼下がり。

 静かな動物園のベンチに、1人の初老の男が佇んでいた。

 そして、無造作にネクタイを緩め、窪んだ目で1匹の老猿をじっと見つめていた。

 老猿もまた、弱々しい目で男を見つめていた。

 

 久し振りだな。

 こうしてゆっくり会えるのは、いつ以来だろうか……。

 

 男は自分と似た境遇の老猿に静かに語りかけた……。


 これはかなり古い作品。

 短編小説にした後でラジオドラマにして応募したこともあるので、当時の自分にとっては何となく気になる作品だったのでしょう。

 ただ、手書きで書いたとされるオリジナルの短編小説が見つからず、今回リメイクしました。

 ん~、かなり渋い作品だな。

 1998年(?)作。