大人のための小さな物語13      (2020年5月出版)

雨が……

 あの日も雨が降っていた。

 君は覚えているかい、あの日のことを。

 僕達は小学校の同級生。君はクラスで1番可愛くて、ピアノが弾けて、運動もできて、勉強もできた。

 それに対して、僕はというと、運動も勉強も苦手。だから、君を好きだと気付いても、劣等感だけが濃い霧のように僕を覆いつくしたんだ。

 僕は君が好きだった。本当に誰よりも好きだったんだ。それなのに……。

 

 そして、たくさんの月日を経て、僕達は偶然に故郷の神社の盆踊りで再会した。

 浴衣姿で薄化粧の君は誰よりも美しかった……。


 この作品は初恋を描いた作品。

 誰でもありますよねえ。

 勿論私にも。

 なんやかんやと言って、その後好きになった人も何人か顔が似ていたりするんですよねえ、みなさん。

 うん、うん。

 2007年作。

ウォール・ゲート

 昔、ここには高い壁があってな。2つの国に分断されていたんだ。

 壁はそれこそ高層ビルほどの高さで、険しい岸壁のようなコンクリートの塀だった。

 そして、ちょうどこの辺りに入り口があって、唯一両国が通じる門があった。

 WALL GATE(ウォール・ゲート)。

 ここを知る者にはそう呼ばれていた……。

 

 旅に出た。

 ヨーロッパにある歴史的な古い街だ。

 ここを訪れて壁を見上げていたら、1人の老人に声を掛けられた。

 そして、老人は旅人の私を見るなり、昔話を始めた。目から涙をこぼしながら……。


 「旅に出たシリーズ」の第5弾。

 これは最近の作品。

 あっと、別にこれはベルリンの壁のことじゃないですよ。

 壁は他にもたくさんあるそうですから。

 あくまで空想の世界です。 

 2020年作。

十円玉

 私は気が進まなかった。

 10年振りに歩く故郷の道も、懐かしさよりも知り合いと遭遇したらどうしようと考えるだけで、自然と歩調が速くなるのが自分でもわかった。

 父が死んだ。60そこそこだ。病名は心筋梗塞。倒れてすぐに父は他界した。

 叔母から連絡を受けた私は、父の遺産相続のことで故郷に戻ったのだ。

 そして、夫と別居中の妹、軽度の知的障がいの弟との久し振りの再会。

 父の遺産はわずかな金額しかなかった。

 そして、その理由は父の、私達子供に対するある想いからだった……。


 幼い頃の父親からのDVで、故郷を離れた「私」のお話。

 こうして昔の作品を読んでみると、その後のストーリーに類似する点もあって、相関図ができるんじゃないかとも思います。

 で、改めて思います。

 随分たくさん書いてきたなあ、と。

 2005年作。