大人のための小さな物語6       (2017年11月出版)

最後のタクト

 おじいさんは、日本でも有名なオーケストラの元指揮者。戦中は音楽学校の先生もしていた。

 ある日のこと、散歩中のおじいさんが突然倒れて救急車で病院に運ばれた。

 おじいさんは治る見込みのない病気だった。

 そんなおじいさんの唯一の願いは、戦争で亡くなった教え子たちともう一度演奏することだった……。


 戦争を描いた作品なので、少しオモいかもしれません。

 でも、書き手としては、そいうのも書かなければいけないわけでして……。

 主人公のおじいさんは、教え子を戦場に送ったことをずっと後悔して、自責の念にかられて生きてきました。

 そんな実在しない物語の中のおじいさんをなんとか解放してあげたくて、あのようなラストにしました。だから、悲しさとはちょっと違いますよね。

 2003年完成。

野原いっぱいの花たち

 旅に出た。

 広い広い野原。

 そして、色とりどりに無数の花が咲いている。

 

「ここは素敵なところですね」

 私が花の手入れをしている老人に話しかけると、老人は腰にぶら下げていた古いキセルを取り出して、きざみタバコに火を点け、一服して言った。

「ここは、かつて戦争があって、たくさんの命が失われた場所なんだよ」と……。


 「旅に出た」シリーズ(?)の第1弾。

 主人公がどんな人物なのか、訪れた場所はどこなのかをあまり詳しく描かないで、できるだけ読んだ方の想像力にお任せしようとした作品です。

 この作品も戦争を描いています。

 そして、老人の正体なんですが……。 

 2004年完成。

パパズ・スタジアム

 炎天下、初老の男がたった一人、トンボでグラウンドをならしている。

 戦争が終わってから、もうかれこれ10年も続けている。

 男はここに野球場を建設しようとしている。

 すべては野球が大好きだったのにも関わらず、戦争でその貴重な命を失った息子のために……。


 これも戦争を題材とした、親の子に対する懺悔が背景にある作品です。

 その後、男の執念は孫に受け継がれていきます。

 そして、ラストは親・子・孫の三人によるキャッチボール。

 やっぱり、キャッチボールはいいですよね。

 亡くなった父親ともたまにやっていました。

 このラストを思いついた時は、思わずガッツポーズしました。

 2004年完成。