おじいちゃん、ごめん……。
ちょうど街がシドニー・オリンピックで盛り上がっていた頃、俺が故郷のイリノイ州の田舎町に久し振りに戻ってきたのは、ニューヨークの自宅アパートにかかってきた祖父からの電話がきっかけだった。
86歳の祖父は元十種競技のオリンピック候補選手で、引退後は地元で自動車販売や不動産業、飲食業で成功するが、大人になった子供達に跡を継がせると、さっさとビジネスからも身を引き、地元の大学でボランティアで陸上競技のコーチをしながら、農業を営んでいた。
また10年前に祖母が亡くなると、キャンピングカーで気ままな一人暮らしを謳歌していた。
1980年にモスクワ・オリンピックをアメリカがボイコットした時、祖父はアメリカにもソ連にも激しく憤慨した。
そして、「うちの家族だけでオリンピックをする」と宣言し、祖父の息子と娘の4人の家族に分かれて、様々な競技を行った。
こうして「おじいちゃんオリンピック」が始まり、以来、毎回オリンピックの時期に合わせて開催されている。
しかし、俺は故郷を離れて以来、ここ2回参加していない。
俺は祖父と同じくかつて十種競技のオリンピック候補選手だったが、大ケガをして選手生命を断たれ、それがきっかけで大学を中退し、故郷を出た。
その後、あちこちで問題を起こし、今はニューヨークのダウンタウンに移り住んで、酒浸りのすさんだ生活をしていた。
そんな俺だったが、祖父に電話で「末期ガンで、今回のオリンピックが最後になるかもしれない」と告げられて、居ても立っても居られずに、急遽故郷に戻ったのだ。
久し振りの家族との団欒
かつて愛した女性との懐かしくもほろ苦い再会。
そして、何よりも祖父と会えてことほど、心を揺さぶられることはなかった。
それなのに、祖父はもうすぐ亡くなるなんて……。
祖父は昔のままの俺の知っている祖父だった。
そして、俺は最後の「おじいちゃんオリンピック」に臨んだ。
主人公の男性は20歳で故郷を捨てて都会で生活するのですが、成功と失敗を繰り返して、ニューヨークのダウンタウンですっかりすさんだ生活をしています。
そして、末期ガンになった大好きな祖父の願いを叶えるために帰郷します。
でも、そこで一見何も問題がないと思われていた家族の現状に直面します。
かつて愛した女性との再会。
そして、祖父の死。
それら全てを乗り越えて、主人公は決して「今」から逃げずに、新たな一歩を歩んでいくことを誓います。
祖父の数々の言葉を胸に、祖父の孫であることを誇りに思って。
この作品も舞台はアメリカ。タイトルはアメリカっぽくないですけど。
時々こうして海外向けの内容の物語を書きます。そのほとんどがアメリカを舞台としたものです。
やはり、多感な時期に洋画や洋楽で育った世代だからでしょうか。
それに、個人的な夢もありまして……。
2014年作。