背番号のないユニフォーム                (2016年10月出版・2020年9月再出版)

 少年野球の神代ブレーブスに所属しているボクは、キャプテンで4番でサード。

 ある日曜日の朝、山西ライオンズとの練習試合で、河川敷のグラウンドにやってきたが、大事なユニフォームを忘れていたことに気が付いた。

 監督にこっぴどくお説教されたボクは、仕方がないので、監督のワゴン車の奥の奥にあった背番号のないユニフォームを着て、試合に臨んだ。

 ちょっと小さいけれど、どうせ何を着たって同じ。ユニフォームが野球をする訳じゃないし、ボクはボク。

 ところが、今日のボクはいつものボクじゃなかった。

 打っては4打数4三振。守ってはエラーばかり。

 結局、試合は大差で負けた。全部ボクのせいだ。

 ボクは悔しくて情けなくて、ユニフォームを脱ぐと、それをグランウンドに投げ捨て、みんなが止めるのもきかずにそのまま帰った。

 

「圭太君、圭太君……」

 その夜、ボクはボクを呼ぶ声で目が覚めた。

 そして、声のする方を見て驚いた。

 目の前には、ボクが着ていた背番号のないユニフォームが正座をしていた。

 ユニフォームは亡くなった野球大好きの章君という少年だった。

 そして、ユニフォームによって語られた悲しい過去。

 ボクは話を聞きながら、涙を流して誓った。

 ボクがこのユニフォームを着て、ヒットを打ってあげると……。

 次の日からボクは、毎日そのユニフォームを着て、一生懸命に練習した。

 少年野球の監督から告げられた章君の真実。

 章君を想っていたみゆきさんとの出会い。

 応援してくれる周囲の人達。

 

「代打、森!」

 そして、強豪国分寺エンゼルスとの試合。

 最終回の7回裏、1点差で負けていたが、2アウトランナー1・3塁で、同点のチャンス。

 右手をケガして先発を外れたボクだったが、全ての人達の想いを背負って、打席に向かった

 章君の背番号のないユニフォームを着て……。


 この作品は、2010年に書いたもので、実ははやしたかし童話大賞に「総理大臣になった少年」と一緒に応募した作品です。

 その後、はやし先生に三鷹の高級マンションに呼ばれた時に、「大賞はどっちでもいい」と言われたのですが、結局出版社の判断で「総理大臣……」が受賞しました。

 そういう意味でも、思い出深い作品の1つです。