少年野球の神代ブレーブスに所属しているボクは、キャプテンで4番でサード。
ある日曜日の朝、山西ライオンズとの練習試合で、河川敷のグラウンドにやってきたが、大事なユニフォームを忘れていたことに気が付いた。
監督にこっぴどくお説教されたボクは、仕方がないので、監督のワゴン車の奥の奥にあった背番号のないユニフォームを着て、試合に臨んだ。
ちょっと小さいけれど、どうせ何を着たって同じ。ユニフォームが野球をする訳じゃないし、ボクはボク。
ところが、今日のボクはいつものボクじゃなかった。
打っては4打数4三振。守ってはエラーばかり。
結局、試合は大差で負けた。全部ボクのせいだ。
ボクは悔しくて情けなくて、ユニフォームを脱ぐと、それをグランウンドに投げ捨て、みんなが止めるのもきかずにそのまま帰った。
「圭太君、圭太君……」
その夜、ボクはボクを呼ぶ声で目が覚めた。
そして、声のする方を見て驚いた。
目の前には、ボクが着ていた背番号のないユニフォームが正座をしていた。
ユニフォームは亡くなった野球大好きの章君という少年だった。
そして、ユニフォームによって語られた悲しい過去。
ボクは話を聞きながら、涙を流して誓った。
ボクがこのユニフォームを着て、ヒットを打ってあげると……。
次の日からボクは、毎日そのユニフォームを着て、一生懸命に練習した。
少年野球の監督から告げられた章君の真実。
章君を想っていたみゆきさんとの出会い。
応援してくれる周囲の人達。
「代打、森!」
そして、強豪国分寺エンゼルスとの試合。
最終回の7回裏、1点差で負けていたが、2アウトランナー1・3塁で、同点のチャンス。
右手をケガして先発を外れたボクだったが、全ての人達の想いを背負って、打席に向かった
章君の背番号のないユニフォームを着て……。
この作品は、2010年に書いたもので、実ははやしたかし童話大賞に「総理大臣になった少年」と一緒に応募した作品です。
その後、はやし先生に三鷹の高級マンションに呼ばれた時に、「大賞はどっちでもいい」と言われたのですが、結局出版社の判断で「総理大臣……」が受賞しました。
そういう意味でも、思い出深い作品の1つです。