あかりのあかり2          (2022年7月出版)

 もう疲れちゃった……。

 夕暮れ時の街角をトボトボ歩いている途中、ふとかりんさんは溜め息交じりで、そんなことを呟きました。呟いたというよりも、つい言葉が零れたような感じでした。それだけ心がどうしようもないくらいに疲弊していたのでしょう。

 かりんさんは26歳。フリーでメイクの仕事をしています。若いですが、仕事が丁寧で技術もあるので、ありがたいことに、口コミなどでここ1年、やっと仕事が増えてきました。

 フリーで仕事を請け負っているため、かりんさんの元には様々な依頼が舞い込んできます。

 中でも、かりんさんが特に大切にしている仕事が、高齢者施設や病院に赴いて、入居者や入院患者の女性にするメイクです。滅多に化粧をする機会がなくなった人へメイクをすると、誰もが表情が明るくなり、笑顔を浮かべて感謝されます。その時、心底「この仕事をしてよかった」と思います。

 そして、亡くなった女性への死化粧。一生懸命に生き切った人への敬意のしるしとして、きれいな顔で天国に送り届けたい、という気持ちを込めて。

 そして、遺族の方々に澄んだ涙でお礼の言葉をもらう度に、個人の人生の最期にこうして携わることができた縁に深く感謝しました。

 そんなかりんさんが今頭を悩ませている仕事が、大邸宅に一人暮らしをしている車椅子で右手が不自由な80代の女性に化粧をすることですが、この女性がかなりの気難しい人で、いつも遠慮なくダメ出しを言ってきます。それも、かなり辛辣な言い方で。

 今日もその婦人の仕事の帰りで、こっぴどく批判され、かなり落ち込んで憂鬱な気持ちです。

 そんなかりんさんの目の前に、外に珍しいガス灯がほんのりと揺れている建物がありました。

 何かな、あの建物……。

 かりんさんはオレンジ色の明かりにまるで導かれるように、中に入りました。

 そう、明かりの専門店「あかりのあかり」に……。


 「あかりのあかり」の第2弾。

 かりんさんは大好きだった親戚のお姉さんの影響で、お姉さんの亡くなった後に同じ道にすすみます。

 お姉さんのような人間になりたくて。

 でも、やはり苦労はするわけでして……。

 それでもやはり、かりんさんの中に生き続けているお姉さんの存在の大きさで困難を乗り越えます。

 そして、これからもそうなのでしょう。

 心の中のお姉さんとともに。

 まっ、その後の物語は書くつもりはないと思いますが、きっとそうなのだと思います。

 何かとっても無責任ですが、主人公の今後を温かく見守りたいと思います。 

 2021年作。