JB(ジュークボックス)が流れると2  (2021年10月出版)

 たった今、不思議な体験をしました。

 まるで淡い夢を見ていたようです。

 いや、夢とは違う。あまりにも鮮明過ぎて。

 マスターの言う通りでした。このジュークボックスで懐かしい曲を聴いているうちに、どうやら遠い過去に戻ったようです。

 最初はマスターの話を半信半疑で聞いていましたが、本当にその通りでした。曲が流れている間中、私はあの場所にタイムスリップしていました。これは本当に不思議なジュークボックスですね……。

 

 私は祖母の13回忌を兼ねて山間の温泉街を訪ねた。

 生前祖母は小さな民宿を営んでいた。

 子供の頃の私は夏休みになると、1人で半日列車を乗り継いで、祖母のところを訪れ、ひと夏を過ごした。

 そして、私が小学校5年生の時、そこでゆうこさんと出会った。

 ゆうこさんは両親の多額の借金と妹や弟の生活のために、全国のストリップ劇場を転々とする踊り子だった。

 長身で、艶やかな黒髪が長く、色白で、誰の目から見ても美人で、いつも石鹼のいい匂いがした。

 村下孝蔵が好きで、よく私に焼味噌団子を作ってくれた。梅干しの果肉を少し入れたのか、ほんのりと酸味があり、とてもおいしくて、私はそれが大好きだった。

 そんなゆうこさんとのひと夏の思い出。

 そして、突然の別れ……。

 

 私は偶然に古いボンネットバスの移動式カフェに立ち寄った。

 そして、マスターに言われるまま、ジュークボックスで村下孝蔵の「ゆうこ」を聴いているうちに、別れの前日の夜にタイムスリップした……。


 以前、「JBが流れると」を書きましたが、「いつかまた機会があったら、第2弾を書いて出版したいな」とずっと思っていて、やっと今回実現出来ました。

 ジュークボックスで曲を聴いていると、曲の間中タイムスリップするお話ですが、前回は佐野元春の「サムデイ」で、今回は村下孝蔵の「ゆうこ」です。本当にいい曲です。

 YouTubeのおかげで、昔の曲を聴く機会が断然増えました。CDで聴きたくても売っていない場合もありますから。

 中学、高校、大学の時はラジオばかり聴いていたせいか、当時の曲はほとんど覚えています。

 あれから数十年経っていますが、なぜか昔口ずさんでいた歌は忘れないものです。

 お金がなくてレコード買えないから、ラジオから流れる曲を録音して何度も聴いていたっけ。

 その反動で働いてお金を手にしてからは、一時期CDを買いまくりました。

 思い出の歌が多すぎて、このシリーズ100くらいいけそうだなあ。

 まっ、所詮そんな時間はありませんが。

 またいつか機会がありましたら、第3弾を書きたいと思います。

 2021年作。