風船は風に乗って2       (2019年7月出版)

 無秩序な自然が暴走した。

 ある日突然、何の前触れもなく。

 大自然の前では、人間はちっぽけだ。

 無力だ。

 しかも、相手は正気でない。

 狂乱状態だ。

 人間は長い時間をかけて築き上げた建造物は一瞬で崩壊し、大切な思い出や様々な想いも、いとも簡単に何のためらいもなく飲み込んだ。

 そして、多くの尊い命までも犠牲になった。

 私の幼い妹も亡くなった。

 小学校4年生。

 私と一回り年齢が離れていて、私とは対照的でとても明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる性格だった。

 妹は10歳にして、家族の中の太陽だった。

 私達家族は、太陽を失った。

 突然、絶望という名の暗闇に葬り去られたのだ。

 ある日、私は天国にいる妹に言葉を送った。青い風船にマジックで。

 『元気か』って。

 考えてみれば、亡くなった人に対して間抜けな言葉であるが、それしか思いつかなかった。

 そして、それから数ヶ月後のこと。

 私が大学卒業後を決める大事な試験の当日、自宅を出て最寄りの駅に向かう途中、すっかりネガティブになっていた私の目の前に、色鮮やかな青い風船が飛んできた。

 そして、そこには黒のマジックで、『元気だよ』と書かれてあった。

 私はそれが妹からのメッセージだと思い、強い感情を持って駅へと続く道を一気に駆け抜けた。

 

 あれから3年が経った。

 念願の教師となった私だったが、今、1人の女生徒のことで思い悩んでいた。

 深川かれんちゃん。

 普段から誰とも交わらず、表情を変えずに声も発しない。

 そして、私はあることがきっかっけで、その子に怖いくらいに睨まれて、こう言われた。

「先生、キライ!」

と……。


 これは東日本大震災を背景とした作品です。

 「ナミダのはな」、「黒電話」に続く作品です。

 大震災が起きた時期とは違いますが、この時期に取り上げる必要があるのでは、と思っての出版です。

 実際、テレビや新聞で震災を取り上げるのもやはり3月しかないですから。

 毎日の慌ただしい生活の中で、1年に1回だけしか思い出すことがなくなってきました。

 あの時、家族や仲間を思いやり、大切さを感じ、命についても真剣に向き合い、人生についても考え、節水や節電にも心掛けていましたが、今はもう……。 

 なんかなあ……。

 て、感じです。

 震災の影響で転院を強いられ、そのことが多少なりとも影響したためか、父が亡くなった私にとって、あの年は忘れられない年になりました。 

 「人間は忘れる生き物で、忘れるからこそストレスをため込まないのだ」と、何かの本で読んだことがありますが。

 きっとそうなのでしょうけど。

 でも、ねえ……。

 絵はみずきさん。ありがとう。

 内容が内容だけに、シンプルな表紙にしました。

 2018年作。