無秩序な自然が暴走した。
ある日突然、何の前触れもなく。
大自然の前では、人間はちっぽけだ。
無力だ。
しかも、相手は正気でない。
狂乱状態だ。
人間は長い時間をかけて築き上げた建造物は一瞬で崩壊し、大切な思い出や様々な想いも、いとも簡単に何のためらいもなく飲み込んだ。
そして、多くの尊い命までも犠牲になった。
私の幼い妹も亡くなった。
小学校4年生。
私と一回り年齢が離れていて、私とは対照的でとても明るく、誰とでもすぐに仲良くなれる性格だった。
妹は10歳にして、家族の中の太陽だった。
私達家族は、太陽を失った。
突然、絶望という名の暗闇に葬り去られたのだ。
ある日、私は天国にいる妹に言葉を送った。青い風船にマジックで。
『元気か』って。
考えてみれば、亡くなった人に対して間抜けな言葉であるが、それしか思いつかなかった。
そして、それから数ヶ月後のこと。
私が大学卒業後を決める大事な試験の当日、自宅を出て最寄りの駅に向かう途中、すっかりネガティブになっていた私の目の前に、色鮮やかな青い風船が飛んできた。
そして、そこには黒のマジックで、『元気だよ』と書かれてあった。
私はそれが妹からのメッセージだと思い、強い感情を持って駅へと続く道を一気に駆け抜けた。
あれから3年が経った。
念願の教師となった私だったが、今、1人の女生徒のことで思い悩んでいた。
深川かれんちゃん。
普段から誰とも交わらず、表情を変えずに声も発しない。
そして、私はあることがきっかっけで、その子に怖いくらいに睨まれて、こう言われた。
「先生、キライ!」
と……。
これは東日本大震災を背景とした作品です。
「ナミダのはな」、「黒電話」に続く作品です。
大震災が起きた時期とは違いますが、この時期に取り上げる必要があるのでは、と思っての出版です。
実際、テレビや新聞で震災を取り上げるのもやはり3月しかないですから。
毎日の慌ただしい生活の中で、1年に1回だけしか思い出すことがなくなってきました。
あの時、家族や仲間を思いやり、大切さを感じ、命についても真剣に向き合い、人生についても考え、節水や節電にも心掛けていましたが、今はもう……。
なんかなあ……。
て、感じです。
震災の影響で転院を強いられ、そのことが多少なりとも影響したためか、父が亡くなった私にとって、あの年は忘れられない年になりました。
「人間は忘れる生き物で、忘れるからこそストレスをため込まないのだ」と、何かの本で読んだことがありますが。
きっとそうなのでしょうけど。
でも、ねえ……。
絵はみずきさん。ありがとう。
内容が内容だけに、シンプルな表紙にしました。
2018年作。