あめ屋1               (2019年4月出版)

 ここは「あめ屋」。

 手作りの傘や雨具などを売っている雨の専門店です。

 一応、今年で創業200年にもなる由緒正しい老舗のお店です。

 現在、8代目店主のすずさんがたった一人でお店を切り盛りしています。

 すずさんは25歳と若いのですが、職人としての優れた技術や抜群のセンスを持ち合わせています。

 ただちょっと天然というか、変わっているところがありまして……。

 

 さて、空が我慢できなくて、とうとう小雨が降ってきました。

 お店から出てきたすずさんは、雨空を仰ぎ見て、店の前の椅子に大きなアマガエルの置き物を乗せました。

 「あめ屋」が営業開始の合図です。

 今日は一体どんなお客さんがやってくるのやら。

 楽しみ、楽しみ。

 

「やれやれ、遂に曇り空も耐え切れなかったか……」

 池永さんは70代後半の男性です。

 今日は亡くなった奥さんの月命日で、自宅から2時間かけてわざわざお墓参りにやってきたのですが、生憎帰りのバスに乗り遅れ、タクシーも拾えず、仕方なく墓地から駅まで歩こうとしたところ、雨に見舞われたのです。

 そんな池永さんの目の前に、優しい灯りが映りました。

 そこには、ログハウス調の平屋の建物がポツンと立っていて、「あめ屋」の看板が見えます。

 一体、何の店だろう……。

 そして、池永さんはまるで何かに導かれるように、店のドアを開けました。


 「あめ屋」は雨専門店。

 そして、雨が降っている時や雨が降りそうな時にしか店を開けません。

 まっ、実際はそんなお店はありませんよね。 

 それにしても、これまでも「おもひで屋」、「かねこ工房」、「がんばれ本舗」、「ぴあの」、「不思議ミュージアム」、「よるの教室」など、珍しい職業やそれに携わっている人を描いてきました。

 共通しているのは、やはりちょっと(?)変わった人達が主人公。

 この作品の主人公のすずさんもしかり。

 そして、これから発表していく作品もやはり……。

 表紙はみずきさん。

 可愛い絵を描いてくれました。

 2018年作。