ここは「不思議ミュージアム」。
10坪ほどの狭い館内には、世界中の珍品が集められています。
ドラキュラのキバ。
ピノキオの鼻。
カッパのお皿。
シャーロック・ホームズのパイプ。
天使の翼の羽。
一寸法師の打ち出の小槌など。
とにかく全部世界にたった1つしかない物ばかりです。
館長はおじいさんのタルさん。でも、年中珍品を探しに世界中を飛び回っているので、おばあさんのハナさんが毎日博物館の受付にいます。いつも居眠りばかりしていますが。
周囲の人達のほとんどがニセモノだと思っているようで、お客さんは全く来てくれません。
それでも時々、孫で小学生のヒガシくんとみなみちゃんが学校帰りに遊びに来てくれます。
ハナさんにとっては、それが何よりの楽しみでもあります。
さて、夕方の5時過ぎ、アメリカから帰国したばかりのタルさんがある百貨店の屋上の「くつろぎ広場」で、いつものソフトクリームを食べようと行ってみると、そこには女子大生のしおりさんがいました。とても深くて重い溜め息をつきながら。
タルさんはソフトクリームをご馳走して、訳を聞いてみました。
するとしおりさんは、今夜某一流ホテルで大学生主催のパーティーがあるのですが、お金がなくて、履いていく靴を買うことができない、と言うのです。
そして、そのパーティーは2歳年上の憧れの高野先輩が誘ってくれたのだ、とも。
しおりさんは苦学生でした。
タルさんは話を聞き終えると、気の毒に思い、リュックサックからガラスの靴を出して、しおりさんに渡しました。
そう、あのシンデレラが履いたとされるガラスの靴を……。
「不思議ミュージアム」には、世界中の珍しい物ばかりが展示されています。
でも、孫のヒガシくんや周囲の人達の多くは、全てニセモノだと思っています。
でも、そんな博物館があったら、たとえニセモノでも個人的には行ってみたいですけど。
そして、実は館主のタルさんが世界中を飛び回って珍品を集めるようになったのは、悲しい過去があったからです。
物語の後半は古典的なラブストーリーです。
やっぱりシンデレラのガラスの靴ですから、ハッピーエンドじゃなくちゃね。
大人達を主人公としながら、児童文学の要素を盛り込んだとても読みやすい文章です。
夏休み真っただ中の子供達にぜひ読んでもらいたいですね。
勿論、毎日一生懸命に頑張っている大人にも。
2015年作。