あいつが死んだ。
あいつといっても、彼氏ではない。義理の弟だ。親同士が再婚して、それぞれの連れ子だった私達は、ある日突然に自分達の意思とは関係なく姉弟になった。
あいつ、イツキは私より年下。でも、私よりあらゆる面で大人だった。長身で顔立ちも良く、学校の成績もずば抜けていたあいつ。だからといって、他人にそれをひけらかすことはせず、それ自体に全く関心がない様子だった。
エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」が大好きだったイツキ。
そんなイツキの夢はラジオのDJになることだった。
そして、大学入学後、大型バイクで北海道にツーリングしている途中、イツキは事故で亡くなった。
誰もがその早すぎる死を悼んだ。
それはイツキの四十九日の法要が行われた夜のことだった。
雷鳴が轟く日曜日の深夜1時。
OLとなりアパートで一人暮らしをしていた私は、つい心が寂しくて、イツキの手製のトランジスタ・ラジオを見つけると、思わずスイッチを入れて何気なくダイヤルを合わせた。
ダイヤルは1059。天国だった。
すると、ラジオの向こうから「ティアーズ・イン・ヘヴン」が流れて、懐かしい声が聞こえてきた。
皆さん、今晩は。
イツキです。
今日もレディオ・ヘヴン、天国から皆さんのメールやお手紙、そして思い出の曲を紹介していきます……。
イツキは天国でDJをしていた……。
この物語の天国でDJしているイツキさんは、以前出版した「おもひで屋2」で登場しています。
今回やっと本編での登場です。
長かった。やっとだ。
この作品だけではなく、中学・高校・大学時代とずっと深夜のラジオっ子だったので、どうしてもそういった作品が多いですねえ。
特に中学・高校時代は田舎に住んでいたので、それこそ東京のラジオ番組が聴きにくくて聴きにくくて……。
何度悔しい想いをしたことか……。
気に入った曲や新曲をカセットに録音とかしていたので(当時はみんなそう。レコードなんて滅多に買えなかった)。
今回書き直しながら、そんなことも思い出しました。
2009年作。
「あのォ……」
「……はい」
「寒くないですか?」
「……」
「よかったら、僕のジャンパー貸しましょうか?」
「……いいえ、結構です」
失敗した……。
「あのォ……」
「今度は何ですか!」
「おなか、空いてません?」
「……」
「よかったら、一緒にカップラーメンでもどうですか?」
「いい加減にしてください! これから私達、何をしようとしているのか、わかっているんですか! 自殺するんですよ! これから死のうとする見ず知らずの男女が、カップラーメンを食べてどうするんですか! 遺体現場にカップラーメンの食べ残しがあったら、それこそ警察官の笑い者ですよ」
遂に私はキレた。
午後7時過ぎ、OLで仕事帰りの私は、携帯サイトに「誰か私と死んでくれませんか」と書き込みをして、男と知り合った。
それから男の軽自動車で、この空き家にやってきた。
しかし、その後も男によってすっかりペースを乱された私は、赤ワインで乾杯して自分の誕生日まで祝う羽目になってしまった。
そして、翌日に分かった男の正体というのが……。
これも「自殺」のお話。
このお話だけではなく、自殺をテーマにした作品は多いように思います。
また、先日若くて才能のある俳優が亡くなりました。自殺のようです。自分より若い人の自殺は、本当に心が痛いです。
謹んでお悔やみ申し上げます。
ちなみに、以前出版した「大人のための小さな物語1」の「僕が守ってあげる」が発展して、このお話が生まれました。
2009年作。