大人のための中くらいの物語6   (2020年8月出版)

天国のDJ

 あいつが死んだ。

 あいつといっても、彼氏ではない。義理の弟だ。親同士が再婚して、それぞれの連れ子だった私達は、ある日突然に自分達の意思とは関係なく姉弟になった。

 あいつ、イツキは私より年下。でも、私よりあらゆる面で大人だった。長身で顔立ちも良く、学校の成績もずば抜けていたあいつ。だからといって、他人にそれをひけらかすことはせず、それ自体に全く関心がない様子だった。

 エリック・クラプトンの「ティアーズ・イン・ヘヴン」が大好きだったイツキ。

 そんなイツキの夢はラジオのDJになることだった。

 そして、大学入学後、大型バイクで北海道にツーリングしている途中、イツキは事故で亡くなった。

 誰もがその早すぎる死を悼んだ。

 

 それはイツキの四十九日の法要が行われた夜のことだった。

 雷鳴が轟く日曜日の深夜1時。

 OLとなりアパートで一人暮らしをしていた私は、つい心が寂しくて、イツキの手製のトランジスタ・ラジオを見つけると、思わずスイッチを入れて何気なくダイヤルを合わせた。

 ダイヤルは1059。天国だった。

 すると、ラジオの向こうから「ティアーズ・イン・ヘヴン」が流れて、懐かしい声が聞こえてきた。

 

 皆さん、今晩は。

 イツキです。

 今日もレディオ・ヘヴン、天国から皆さんのメールやお手紙、そして思い出の曲を紹介していきます……。

 

 イツキは天国でDJをしていた……。


 この物語の天国でDJしているイツキさんは、以前出版した「おもひで屋2」で登場しています。

 今回やっと本編での登場です。

 長かった。やっとだ。

 この作品だけではなく、中学・高校・大学時代とずっと深夜のラジオっ子だったので、どうしてもそういった作品が多いですねえ。

 特に中学・高校時代は田舎に住んでいたので、それこそ東京のラジオ番組が聴きにくくて聴きにくくて……。

 何度悔しい想いをしたことか……。

 気に入った曲や新曲をカセットに録音とかしていたので(当時はみんなそう。レコードなんて滅多に買えなかった)。

 今回書き直しながら、そんなことも思い出しました。

 2009年作。

午前零時、見知らぬ部屋で見知らぬ男と

「あのォ……」

「……はい」

「寒くないですか?」

「……」

「よかったら、僕のジャンパー貸しましょうか?」

「……いいえ、結構です」

 失敗した……。

「あのォ……」

「今度は何ですか!」

「おなか、空いてません?」

「……」

「よかったら、一緒にカップラーメンでもどうですか?」

「いい加減にしてください! これから私達、何をしようとしているのか、わかっているんですか! 自殺するんですよ! これから死のうとする見ず知らずの男女が、カップラーメンを食べてどうするんですか! 遺体現場にカップラーメンの食べ残しがあったら、それこそ警察官の笑い者ですよ」

 遂に私はキレた。

 午後7時過ぎ、OLで仕事帰りの私は、携帯サイトに「誰か私と死んでくれませんか」と書き込みをして、男と知り合った。

 それから男の軽自動車で、この空き家にやってきた。

 しかし、その後も男によってすっかりペースを乱された私は、赤ワインで乾杯して自分の誕生日まで祝う羽目になってしまった。

 そして、翌日に分かった男の正体というのが……。


 これも「自殺」のお話。

 このお話だけではなく、自殺をテーマにした作品は多いように思います。

 また、先日若くて才能のある俳優が亡くなりました。自殺のようです。自分より若い人の自殺は、本当に心が痛いです。

 謹んでお悔やみ申し上げます。

 ちなみに、以前出版した「大人のための小さな物語1」の「僕が守ってあげる」が発展して、このお話が生まれました。

 2009年作。