きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶2 (2019年6月出版)

 外では冷たい北風がピュ~ピュ~口笛を吹いて、街行く人々を追いかけ回している午後8時過ぎ。

 「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」でバイト中の女子高生・ゆりなちゃんは、かれこれ1時間以上も時々うめき声を発しながら、鼻の下にシャーペンを挟んで腕組みして、テーブルの上のノートとにらめっこしています。

「ゆりなちゃん」

「……」

「ゆりなちゃん、たら」

 30分前からお客さんで来ている秋田さんにも、全く気付かないほどです。

「あっ、秋田さんだ。い、いつの間に……」

 やっと気付いたゆりなちゃんに、秋田さんは苦笑いしながら、深い溜め息をつきました。

 実はゆりなちゃん、高校の宿題で苦手な詩が出されて悩んでいるらしいのです。

「もう私、ノイローゼになりそうですゥ」

 秋田さんはなぜゆりなちゃんが詩くらいでこんなに真剣に悩んでいるのかが、全く理解できません。

 でも、変わり者のゆりなちゃんのことだから、と思い直して、深く考えることを止めました。

 そんなゆりなちゃんでしたが、マル・ウォルドロンの「レフト・アローン」のレコードがかかると、なぜか詩のインスピレーションが沸いてきて、一気に詩を書き上げました。

 しかし、その詩というのが、何と言うか……。

 やはり、普通の発想ではなくて……。

 

 そして、午後9時を少し回った頃、お店に30歳のOLのチカさんが3年振りに訪れました。

 デブネコのシショウもチカさんのことを覚えているらしく、薬指をペロペロ舐めて迎え入れました。

 しかし、チカさんは3年前と同じく失恋したらしくて元気がありません。

 そして、よりによってあの時と同じく、今日は「レフト・アローン」が流れる日でして……。 


 「きれいな夜景が見える小さなジャズ喫茶」の第2弾。

 再び天然系の女子高生・ゆりなちゃんの登場です。

 今回はマル・ウォルドロンの「レフト・アローン」を題材としています。

 作品中に曲に合わせて、ゆりなちゃんが書いた詩があります。

 ぜひ音楽を聴きながらその詩を読んでください。

 あのメロディーであの詩。

 あまりにくだらなくて、大笑いすると思います。

 それとも怒るかな?

 2017年作。