ある朝早く、ピアノの調律師の京一さんの元に、突然いとこで高校に入学したばかりのユッコちゃんから電話がありました。
3日後、私立の格式高い、クリスチャン系のお嬢様学校の女子大に行って、ピアノを診てもらいたいとのことでした。
ユッコちゃんは一方的に用件を伝えると、さっさと電話を切りました。
京一さんは受話器を取ったものの、その数時間前までクラブで友人とジャズを演奏して、すっかり深い眠りに堕ちていたため半信半疑でしたが、昼過ぎに目覚め、着信履歴にユッコちゃんの名前を見つけると、早朝の電話が現実だと知って、深くて憂鬱な溜め息をつきました。
さて、一応ユッコちゃんに言われた通り、背広とネクタイと革靴で女子大にやってきた京一さんでしたが、70代の学園の理事長であるシスターの案内で、築100年以上の歴史ある洋館に入りました。
すると、そこには赤絨毯が敷き詰められた広い音楽室に、1台のグランドピアノが置かれていました。
「さて、お手並み拝見です。お好きなように、このピアノを診てくださいな」
ピアノを診て、どこが問題なのか、自分で考えろということか……。
シスターのこの言葉に、京一さんはすっかりスイッチが入ったようで、すぐにこのピアノが100年くらい前に作られたドイツのベヒシュタインのグランドピアノであると告げました。
そして、鍵盤に指を走らせて、付け加えました。
「このピアノ、ミの音だけが少しだけ違いますね。多分鍵盤だけが他と違うのだと思います」
すると、シスターはパッと笑顔の花を咲かせて言いました。
「よくわかりましたね。今までたくさんの調律師の方やピアノの専門家に診てもらいましたが、あなただけです。そのことがわかったのは」
そして、ピアノのこと、自身の遠い昔の淡い恋の話を語り始めました……。
「ぴあの」の第3弾。
かなり変わったピアノの調律師の京一さんのお話。
以前ホームページで書いたことがありますが、私は楽器は何も弾けませんし、絵も下手です。
そのせいなのか(?)、ピアノと絵の作品が多いです。
きっと自分自身では意識していませんが、憧れがあるんでしょうね。
でも、ピアノの曲は毎日のように聴いています。
西村由紀江さん、倉本雄基さん、中村由利子さん……。
特に、西村由紀江さんはデビューした当時からずっと聴いています。
執筆中もよく聴きます。
何となく心が落ち着きます。
多分これからもずっと聴いていくと思います。
それだけ大好きなピアニストです。
実は、もうすぐで第4弾を執筆します。
第3弾を出版してから、第4弾を書くのは流れがいいですね。何か、世界観が続いていて。
今からとても楽しみです。
ぜひ丁寧に心を込めて書きたいと思います。
ピアノの音楽を聴きながら。
2020年作。