「しまった。国語のドリルを図書館に忘れちゃった」
夜の9時半を少し回った時だった。
僕は居間で小学校の宿題をしようと、ランドセルの中の物を全部、テーブルの上に無造作に並べた。
しかし、目的の物は見つからなかった。
今から約5時間前、僕はめったに行くことのない図書館に行った。
社会科の宿題の調べものをするためだ。
その時に国語のドリルを忘れてしまったのだ。
今日は珍しく国語のドリルの宿題が4ページも出ていた。
僕は宿題忘れは一度もない。
昨日担任の先生にも褒めてもらったばかりだ。
しかも、みんなの前で。
だから、なおさら宿題を忘れる訳にはいかなかった。
考えた末、僕は小学校にドリルを取りに行った。
そして、校舎に忍び込んで誰もいない図書館に入り、床に落ちていたドリルを見つけた。
その時だった。
「誰、そこにいるのは」
僕は突然目の前から聞こえてきた声に、飛び跳ねるくらいに驚いた。
そして、恐る恐る顔を上げると、そこには僕と同じ小学生の男の子が立っていた。
半袖に野球帽を被っていて、身長は僕と同じくらい。
「僕、ここに住んでいるんだ」
目をクリクリさせながらそう言った少年の名前は、ひなた君。
とても不思議な子だ。
それから、僕は毎日のように夜9時になると図書館に忍び込んで、ひなた君と一緒に時間を過ごした……。
これは最近の作品。正真正銘の児童文学です。ま、おとな文学です。
作品内の作家「かわ きよし」の名前は、じつは昨年亡くなられた作家の「はやし たかし」先生が考えてくださった私のペンネームです。
今回やっとこうしてその名前を世に出すことができました。
ちょっとホッとしました。
先生、本当にありがとうございました。
先生には何一つ恩返しができませんでしたが、先生の教えの1つである「ずっと書き続けていくこと」は、これからも続けていくつもりです。
先生がいなくなって、私の作品を唯一いつも褒めてくれる方がいなくなりましたが、それでも前を見つめて書き続けようと思います。
ずっと見守ってください。
2019年作。