図書館に住む少年         (2019年12月出版)

「しまった。国語のドリルを図書館に忘れちゃった」

 夜の9時半を少し回った時だった。

 僕は居間で小学校の宿題をしようと、ランドセルの中の物を全部、テーブルの上に無造作に並べた。

 しかし、目的の物は見つからなかった。

 今から約5時間前、僕はめったに行くことのない図書館に行った。

 社会科の宿題の調べものをするためだ。

 その時に国語のドリルを忘れてしまったのだ。

 今日は珍しく国語のドリルの宿題が4ページも出ていた。

 僕は宿題忘れは一度もない。

 昨日担任の先生にも褒めてもらったばかりだ。

 しかも、みんなの前で。

 だから、なおさら宿題を忘れる訳にはいかなかった。

 考えた末、僕は小学校にドリルを取りに行った。

 そして、校舎に忍び込んで誰もいない図書館に入り、床に落ちていたドリルを見つけた。

 その時だった。

「誰、そこにいるのは」

 僕は突然目の前から聞こえてきた声に、飛び跳ねるくらいに驚いた。

 そして、恐る恐る顔を上げると、そこには僕と同じ小学生の男の子が立っていた。

 半袖に野球帽を被っていて、身長は僕と同じくらい。

「僕、ここに住んでいるんだ」

 目をクリクリさせながらそう言った少年の名前は、ひなた君。

 とても不思議な子だ。

 それから、僕は毎日のように夜9時になると図書館に忍び込んで、ひなた君と一緒に時間を過ごした……。


 これは最近の作品。正真正銘の児童文学です。ま、おとな文学です。

 作品内の作家「かわ きよし」の名前は、じつは昨年亡くなられた作家の「はやし たかし」先生が考えてくださった私のペンネームです。

 今回やっとこうしてその名前を世に出すことができました。

 ちょっとホッとしました。

 先生、本当にありがとうございました。

 先生には何一つ恩返しができませんでしたが、先生の教えの1つである「ずっと書き続けていくこと」は、これからも続けていくつもりです。

 先生がいなくなって、私の作品を唯一いつも褒めてくれる方がいなくなりましたが、それでも前を見つめて書き続けようと思います。

 ずっと見守ってください。

 2019年作。