大人のための小さな物語11       (2019年11月出版)

僕は受け入れる

 僕は受け入れる。

 僕に起こった全てのことを。

 僕は受け止める。

 もう泣いたりしない。

 人のせいにしたり、神様を恨んだりもしない。

 仕方がないこととして、全部受け入れる。

 それが「生きる」ということだから。


 ある程度長く生きていると、やはりこうなのかなあと思います。

 そうなりたいとも、そうならなくてはとも思います。

 とても短いですが、これも私の小説。

 主人公の像は私の頭の中に描いていますから。

 2019年作。

色鮮やかなチョウ

 気が付くと、ボクは果てしなく広がる草原の上空をさまよっていた。

 どうやらボクはチョウらしい。

 でも、ちょっと変わった不思議なチョウだ。

 薄紅色した渦巻き状の模様をしている。

 ふと、1人の美しい少女が草原の中でしゃがんでいるのが見えた。

 辛いことがあったのだろう。

 顔を伏せて、必死に悲しみに耐えている。

 そんな少女の、まるで生命が宿っているかのように艶めいている黒髪に、ボクはそっと羽を畳んだ。

 そして、可憐なリボンとなった……。


 私にとってもちょっと珍しい感覚の作品。

 実は、これ、アイドルグループの歌を聴いて、思い浮かんだ作品。

 時々こういうこともあります。

 そう考えると、アイデアはその辺にたくさん転がっているように思います。

 別に四六時中アンテナを張っている訳ではないですが。

 2018年作。

A.Iのアイ君

 A.Iが当たり前に一般家庭にも普及した時代…

 

 A.Iのアイ君が我が家にやってきたのは、ちょうど僕の2歳の誕生日の時だった。

 野球ボールより少し大きめの白い球体で、なぜかつぶらな瞳と眉毛があった。

 以来、アイ君と僕はいつも一緒だった。

 時には目覚まし時計になって起こしてくれたり、家庭教師となって勉強を教えてくれたりした。

 アイ君はいつも実際の確率を数値に表して、的確にアドバイスしてくれた。

 高校3年生になり、僕は進路のことで悩んでいた。

 どうやってアイ君に話したらいいのか。

 なりたい職業は決まっていたが、それはかなり無謀な挑戦だった。

 でも、どうしてもチャレンジしてみたかった。

 自分の全てを賭けてでも。

 ある日、アイ君にそのことを話してみると、案の定コテンパンにその可能性まで否定されて……。


 近い将来、きっとこうなるのでしょうね。

 いや、実はもうなっているかも。

 それでも、よく世間で言われているようなA.Iが悪いように人間を支配するようなことはないと思います。

 多分。

 きっと。

 ちなみに、主人公の人間の名前は「ウエオ」です。

 ちょっとふざけました。

 アイウエオ。

 2018年作。

ボクは神になる

 ボクはまだ25年しか生きていないが、生まれてからずっと不幸と不運の連続だった。

 それは他人からしたら、想像を絶するほどの人生だった。

 大人は子供だったボクに言い続けた。

「運命は変えられる。努力は必ず報われる」

「人に親切にすれば、いつかは自分に還ってくる」

「いいことは続かない。悪いことも続かない」

 全部大嘘だった。

 ボクがそのことを証明してみせた。

 そうだ。ボクが神になろう。

 古来、日本では死んだらどんな人でも神になるという。

 神になって、善良な人やひたむきに努力し続ける人に手を差し伸べて、悪人には罰を与えよう。

 それ相当な報いを与えてやる。一生後悔するような。

 そのためには、やはりボクが神になるしかない。

 しかも、完璧な神に……。


 イヤなこともいっぱいあります。

 辛いことだっていっぱいあります。

 思い通りにいかない時も、ついてない時も、足を引っ張られる時も。

 人間だから、心が弱ったときはつい自暴自棄になることだって……。

 でも……。

 それでも、生きていくしかない。

 歯を食いしばって頑張るしかない。

 それでもどうにもならない時は……。

 そんな時の、ちょっとした「気休め」になるような、そんな作品を書きたいと思っています。

 私の母校のスローガン、「前へ」です。

 2017年作。