おもひで屋1            (2018年6月出版)

 笑っちゃうほど地味なある街の、駅前の大通りから裏通りをちょっと入って、線路沿いに少し歩いたところ……。そこに「おもひで屋」があります。

 「おもひで屋」はレンタル屋。でも、店主を含めて、かなり変わったお店です。

 

 松田は学生時代の恋人だった里子の葬儀に行く途中、初めて訪れたこの街でハトのフンに上着を汚されて困っていたところ、偶然この店を見つけて、のれんをくぐった。

 大学の卒業間近に里子から別れを切り出された松田は、その悔しさをバネに仕事に励み、今では故郷に大きな不動産会社を経営するまでになった。それでも、里子への想いはずっと残っていた。

 そんなある夜、1人で会社に残り仕事をしていたところ、突然里子の夫から電話があった。

「妻が2日前に亡くなった」と……。


 

「おもひで屋」の第1弾。

 あなたは、かつて心から愛した人の死をどう受け止めますか……。

 恋しいですか……。

 

 この店の店主は、年が20代半ば。ボサボサ頭で、黒縁メガネをかけた、見るからに草食系のやせ細った男子です。そして、レンタル料金は、不思議な時代物のさおばかりではかって決めます。

 その店に松田が偶然に訪れて、上着を借りるのですが、なぜかしっくりして着心地もいい。それに不思議なことに、ポケットには見覚えのある封筒と上着の内側には松田の文字のししゅうが……。

 そして、松田は里子の夫から真実を聞かされます。

 5141円……。松田が里子から借りたお金です。コイシイ(恋しい)と読みます。 

 2012年完成。