あめ屋3             (2020年2月出版)

 朝から降り続く断続的な細かい雨が舞う中、佐々木さんは1人傘を差して散歩中です。

「そう言えば、雨の日にこの道を歩くのは初めてだな」

 この道は晴れの日だけに歩くと決めていました。

 最寄りの大きな公園にも通じているし、商店街も通るので、奥さんに買い物を頼まれた時にはちょうどいいのです。

 それに食い意地が張った相棒のために、途中で買い食いができるから都合がよかったのです。

 その相棒だったネギマという名前の柴犬が亡くなりました。

 退職後に飼った犬で、佐々木さんはいつもネギマと一緒でした。

 だから、ネギマがいなくなって、すっかり意気消沈しました。

 一切外出もしなくなり、笑顔も忘れて無口になり、食事も食べたり食べなかったりなので痩せてしまい、奥さんや近所の人達も心配するほどです。

 ある雨の日、朝から奥さんが出掛けていて、1人で家にいるのも退屈なので、散歩に出かけました。

 珍しく晴れの散歩コースで。

「おや、あの店、いつもは閉まっているのに、今日は珍しく開いてるぞ」

 佐々木さんはまるで何かに吸い寄せられるいように、「あめ屋」の前にやってきました。

 そして、中を覗くと、店内には可愛らしい犬用のレインコートが見えました。

 なんて可愛いんだろう……。

 佐々木さんは無意識のままドアを開けて中に入りました。

 

「いらっしゃいませ」

 店の中で思わずレインコートに見入っていると、店主のすずさんが現れました。

 いつもの優しいまなざしと可愛いエクボで……。


 「あめ屋」の第3弾。

 今回は大事な愛犬を亡くした初老の男性と犬用のレインコートのお話。

 すずさん、いいですねえ。

 出てくる場面はお店の中だけで、お話のメインはお店を訪れるお客さんなのですが、やはりなぜか存在感が際立っています。

 実はすずさんにはモデルがいます。

 最後は珍しくすずさんのドジで終わります。

 2018年作。