がんばれ本舗                                                   (2017年4月出版)

 がんばれ本舗は頑張る人を応援する会社です。

 社員は社長のユウヘイさんただ1人。

 依頼があれば、愛車の軽トラックで全国どこへでも駆けつけて、予算に応じて、いろいろなアイディアを提案し、常に依頼者にも応援された人にも喜んでもらえるように努めています。

 ユウヘイさんは現在1人暮らし。4年前、奥さんのキミコさんは毎年会社が赤字続きで、日々の生活費にも苦労することに耐えられなくなり、一人娘のユリちゃんを連れて家を出て行きました。以来、ずっと1人です。

 それ以後、ユウヘイさんは業務を改善して、お客さんにとっても会社にとっても、1番いい方法を考えるようになりました。大好きなこの仕事を長く続けられるように。そして、最近では時々アルバイトを雇えるようになりました。

 

 ユウヘイさんは今までいろいろな仕事をしてきました。

 例えば、仕事で子供の運動会に行かれなくなった母親の代わりに応援に行ったり、生徒や先生、卒業生や地域の人と大応援団を結成して高校野球の応援をしたり、東京で1人暮らしをして大学を受験する息子さんに田舎の両親からのお弁当や手紙を届けたり……。

 時々変わった依頼もありますが、ユウヘイさんはそうした要望にも全力で取り組んできました。

 

 そして、そんなユウヘイさんに新たな仕事の依頼が舞い込みました。

「このオババはカラオケのど自慢に出た方がいいと思うか。それとも、みんなの言う通り止めた方がいいと思うか」

 隣接する県の某市の駅前にある喫茶店で、1人のお婆さんが挨拶もそこそこに硬い表情でユウヘイさんに尋ねました。

 どうやら、訳ありの複雑な事情があるようでして……。


 以前、「がんばれロボット」を電子書籍で出版しました。その物語を作る前は、「がんばれ」という言葉になぜか違和感と抵抗感があって、誰かに言われると、すぐに「『がんばれ』と言われなくてもがんばっている」、「これ以上、『がんばれ』なんて無理だよ……」て思っていたし、「がんばれ」という言葉が何だか冷たく突き放されたように感じていました。

 しかし、「がんばれ」という言葉は長い年月、ずっと人々の間で使われてきたし、生き続けているのは事実です。きっとこれからだって。一体、この言葉は全世界で1日に何度使われているのでしょうか。

 だから、自分の中でどうしてもこの言葉の負のイメージを払拭したくて、「がんばれ」という言葉に真剣に向き合おうと思い、書いたのが「がんばれロボット」でした。今では言われても嬉しく思いますし、自分でも抵抗なく使っています。

 そして、その第2弾がこの「がんばれ本舗」です。

 主人公は会社を作ってまで、人を応援することが大好きな人のいい男性です。でも、そのせいで、奥さんは娘を連れて家を出て行きます。家族にとっては、迷惑なお父さんですね。個人的には好きですけどね。

 2016年作。