かねこ工房5          (2023年6月出版)

「す、すぐに来てくれ。大至急だ!」

 ある朝、木工工房「かねこ工房」の金子さんに、この町唯一のお寺の和尚さんから、ただならぬ様子で電話がありました。

 金子さんは夜型で、いつもは昼前まで寝ています。この日も普段と変わらずスヤスヤと眠っていたところ、和尚さんからの電話で跳び起こました。

 慌ててスクーターを走らせてやってくると、お寺の門の前で頭に白くて大きな絆創膏を貼った和尚さんが、まるで何事もなかったかのように、ニコニコしながら出迎えてくれました。どうやら用件は愛用の座椅子の背もたれが折れてしまい、それを直してほしいとのことでした。

 大げさに騒ぎ立てた和尚さんですが、金子さんも日頃からお世話になっているので、何も言えず、ただただ苦笑するばかりでした。

 和尚さんは50代で、10年前にこのお寺にやってきました。いつも明るく元気に笑っていて、とても話好きで世話好きなので、町のみんなに慕われていました。

 その後、和尚さんに案内された裏庭で、金子さんは花桃の木を見ました。桃の木は直径30㎝の古木で、すでに生きていませんでした。

 金子さんがそのことを告げると、和尚さんはしばらくの間、無言のまま手を合わせました。

 ところが、そんな和尚さんが突然倒れて、病院に運ばれました。

 金子さんは知らせを受け、急いで隣り町の大きな総合病院に駆け付けました。

 そして、そこで和尚さんの口から、自らの病名と、あの花桃の木に関する和尚さんの悲しい過去が語られました……。


 これは昨年12月に書いた作品。

 何だか急に金子さんに関する物語が2つ浮かんで、急いで書き上げました。

 そんなことがあるんです。

 急に物語の主人公に会いたくなることが。

 いろんなシリーズ物の作品を書いてきて、それぞれ主人公がいるので、やっぱり時々みんなに会いたくなります。

 物語が自然と浮かぶこともありますし、物語を作り上げることもあります。

 そして、書き上げると、またしばしの間お別れ。

 みんな、いい人ばかりです。

 ……何か、変な話をしていますね。

 それにしても、金子さんの恋は一体どうなるんでしょう。

 とても気になります。

 そして、あの白樺の、白いワンピースの女性は一体何者なのでしょう。

 気になります。

 2022年作。