遠い昔。
南ヨーロッパの地中海に面したある島の、小さな村のことです。
この村にトトという少年がいました。
年齢は10歳くらい。
いつも明るく元気で、笑顔を絶やさない子供です。
トトは身寄りがありません。
両親も兄弟も親戚もいません。
いつの頃からか、どこかの街から流れ着いてきました。
村の人達はトトが大好きです。
だから、食事を食べさせてあげたり、簡単な仕事があれば頼んだりしました。
そんなトトが大好きなこと。
それは「本集め」。
でも、トトは学校に通っていないため、文字が読めません。
そして、集めた本をこの村唯一で、トトが寝泊まりしている駅舎の本棚に並べておくのです。
駅長のパンピーノさんは、そんなトトにいつも溜め息をついています。
ところが、ある日トトが村から姿を消しました。
何の前触れもなく……。
この作品は本当は単品で出版したかったのですが、短すぎたので合作になりました。
でも、いつかは長めの作品に書き直して単独で出版したいです。
少年の名前のトトは映画「ニュー・シネマパラダイス」から取りました。
この世で1番大好きな映画です。
2020年作。
たった今、久し振りにお前の手の感触を味わっている。
変わらないな。
とても温かくて柔らかだよ。
死期が迫っている父が娘と手を繋ぎながら心の中で交わした最期の想い、そして言葉……。
たとえ危篤中でも、わずかな意志は存在しているはずです。
目は閉じ、言葉も発せられなくてもです。
きっと手からだって、その温もりや想いを感じられるはず。
絶対にそうです。
だって、つい最近そうした経験をしてきましたから。
2022年作。
ここは「悲しみ公園」。
深夜、辛いことや悲しいことがあって、もうどうしようもなくなった人たちが偶然に集まるところ。
そして、ここにはクラウンがいます。
クラウンは話すことができません。
でも、ここを訪れた人を心から励ますのです。
そして、今夜も……。
悲しくて辛い時、人ってなぜか1人になりたいと思います。
でも、1人になると、余計に悲しみが増していきます。
優しい時間。
穏やかな日常。
そして、静かで温かな励まし。
やはり、それらが心を癒すために大切なのだと思います。
2012年作。
それにしても、世間は狭い。うちの会社に中途採用で入社した女性が僕の中学時代の恩師の娘だったなんて。しかも、僕は最近その子と付き合い始めたばかりだ。
「それで、先生は元気?」
僕の何気ない一言で、なぜか彼女は眉を震わせ俯いた。
先生は若年性のアルツハイマー型認知症を患っていた。もう昨日のことも思い出せないほどで、一人娘の彼女でさえわからないそうだ。すでに教師も辞めていた。
僕は彼女と一緒に先生に会いに行った。過去の先生との苦い思い出を払拭したくて……。
昔は悪いことをして反省の態度を示さなかった時は、平気で先生にビンタされました。
授業中寝ててもです。
今の時代ではもうご法度です。
でも、当時はやはり人前でビンタされたことで、先生を恨んだりしましたが、今となっては笑い話になっています。
別に暴力を肯定している訳ではありません。
そういう時代だったということです。
当然、その暴力で傷ついた人、トラウマになった人もいるでしょうし。
でも、子供だってバカじゃないから、ひっぱたかれて、「あっ、これは俺のために叩いたんだ」とか、「この先生、機嫌が悪いだけで叩いたんだ」とか、「俺のこと、嫌いなんだ」というのはわかりますけどね。
まっ、いずれにせよ、そういう時代です。
2005年作。