旅立ち            (2021年5月出版)

 母親は俺が5歳の時に子宮ガンで亡くなった。発見が遅れたため、病名が分かった時点ではもうすでに手遅れだったそうだ。それからはずっと親父と2人きり。

 親父といっても、血の繋がりはない。母親が幼い俺を連れてこの廃れた山間の田舎町に流れ着き、親父と知り合って再婚した。

 今でも何故か覚えている。初めてこの町の駅を下りた時、ホームの桜の樹が季節外れに咲いていたことを。

 でも、この町にやってきたことも、ある程度俺が大きくなってから聞いた話。なぜ母親が俺を連れてこの町に来たのか、本当の父親はどんな男だったのか、母親の口から聞くことはなかった。ましてや、直接親父からそんなことは聞けない。やはり心のどこかで遠慮する部分が正直あって……。

 

 あれから13年が経った。そして、高校3年生になった俺には新たな問題が生じていた。それは地元の国立大学に進学することを信じている親父に、進路を変更したことをどう話していいのかで悩んでいた。

 俺は東京の専門学校でファッションの勉強がしたかった。しかし、それは親父を裏切る気がして……。それに、今まで大事に育ててもらった恩だってある。

 三者面談を目前に、俺はそのことで毎日頭を悩ましていた……。


 この作品は以前書いたシナリオを小説化したものです。

 主人公は高校3年生。日々ジェットコースターに乗っているようで、いろいろある時期ですよね。

 多感なので、必要以上に悩んだり、傷ついたり、落ち込んだり、喜んだり、笑ったり、泣いたり。

 でも、人生において、とても欠かせないほど大事な時期です。

 しかし、以前はたくさんシナリオや童話を書いてました。

 毎日朝6時まで書いて、昼に起きて仕事に行って、帰ってきてまた書いて。

 そんな生活を20年近くしてました。

 今はもう……。

 2003年作。