大人のための小さな物語14   (2020年10月出版)

最期の言葉

 詩人は50年の長い年月、万年筆とともに数多くの詩を書いてきた。

 万年筆が一緒だと、詩人はとめどなく言葉が浮かんだ。

 時には自分でも思いがけない言葉を綴って、驚いたこともあった。

 そして、ある時気が付いた。詩人の書く詩は、万年筆の言葉でもあるのだと。

 詩人は万年筆を使って自分の想いを文字にし、万年筆もまた詩人を使って、自分の想いを表現していた。

 そして、死期が迫っていることを悟った詩人は、長年連れ添った万年筆に最期の言葉を残そうとしているが、その言葉がなかなか見つからずにいた。

 そして、詩人が万年筆に、万年筆が詩人に残した最期の言葉とは……。


 これは自分の中でもちょっと変わった作品の1つ。

 人間と万年筆それぞれに意思があるって、お話ですから。

 でも、そうだったら、おもしろいですよね。

 実は案外そうだったりして……。 

 2009年作。

白い軽トラック

 男は無名の写真家。

 いつも白い軽トラックに乗って、世界中を旅して回り、写真を撮り続けています。

 男にとって、軽トラックは家そのもの。

 自分自身。

 家族。

 そして、親友。

 時々調子が悪くて動かなくなる時もありますが、それでも男は軽トラックと一緒でした。

 有名な写真家になること。

 それが男と軽トラックの夢でした。

 やがて、ふたりの夢がかないました。

 しかし、大邸宅で暮らすようになった男は、スポーツカーや高級車が何台も置かれたガレージの奥に、大切な「親友」を追いやりました。

 そして、その存在すら忘れてしまいました……。


 これも人と車がそれぞれ意思を持っているというお話。

 テーマは人とモノとの出会い。

 そして、人もモノも好きなもの同士が一緒になるのが一番いい、ってこと。

 人と人もそうですよね。やっぱり。

 まだ独りもんの自分が言うのもなんですが……。

 2010年作。

キョウダイ

 ボクノ オカアサン、シンダ。ホー・チ・ミンノ ジタクデ。マダ ワカイヨ。65サイニ ナッタバッカリ。ヤサシクテ キレイナ オカアサン。ダイスキダッタ。

 イマカラ 3ネンマエニ、ボクガ、

「ニッポンノ ダイガクデ ベンキョウシタイ」

ト ツゲルト、

「イッショウケンメイニ ベンキョウシテ、ニッポント ベトナムノ カケハシニ ナルヨウニ ガンバリナサイ」

ト イッテ、ギンコウノ ツウチョウヲ ワタシテクレタ。

 トコロガ、ソウギデ ベトナムニ カエルト、オニイサンガ ボクニ オドロクヨウナ コトヲ イッタ。

 1マンドルノ シャッキンガ アッテ、ソレヲ コンゲツマデニ カエサナイト、オカアサンノ オミセガ ヒトデニ ワタルト……。

 ボクハ ゼンゼン オカネガ ナイノニ……。

 ソンナ ゼツボウテキナ ボクニ ヤサシク テヲ サシノベテクレタノハ、ユウジンノ キョウコト ミシラヌ ボクノ 「キョウダイ」ダッタ……。


 これはほとんどカタカナで書いた実験的な作品。

 外国人が主人公なので、そうなりました。

 でも、慣れていないので、とても書きにくかった。きっと読みにくいでしょう。

 いいお話なので、何卒ご勘弁を。

 1999年作。