「もうすっかり大丈夫そうだね」
金子さんは森深く深く入った1本の白樺の木の前に立ち、仰ぎ見ながら呟きました。
白樺の木は他の仲間の木に比べても樹皮が真っ白くて輝いているように見えます。人間に例えると、まるで色白の美人さんのようです。
実はこの木、つい数ヶ月前まではその命の灯火さえも消えかけていました。
ちょうど秋頃、原因不明の病気になり、幹も枝も痩せこけ、樹皮も黒く変色し、すっかり弱っていました。
「大丈夫だよ。大丈夫だから」
金子さんは頬を樹皮に当てて、そう励まし続けました。
太陽の恵みを存分に浴びられるようにしたり、根元に藁を敷いて乾燥を防いだり、頻繁に下草を刈ったりと、できるだけのことをしました。
そして、金子さんの献身的な支えもあって、白樺の木は元気になりました。今ではすっかりこの森1番の色白美人さんです。
「じゃあ、また」
金子さんはそう呟くと、得意のスキーで滑走してその場を後にしました。
金子さん、ありがとう……。
何だかそう聞こえた気がしましたが、山の風の仕業だと思って、そのまま去っていきました。
さて、ある日の午後5時を少し回った頃。
吹雪の中、見慣れない1人の美しい女性がかねこ工房に向かって歩いています。
顔が白くて、年齢は20代半ば。全身真っ白なワンピースで、真っ赤なマフラーを首に巻き、大きな白いバッグを肩に掛けています。靴だって、底の浅いパンプス。とにかく季節的にも場所的にも違和感しか感じられない姿でした。
ルルルルン、ルルルル……。
そして、何だか楽しそうに鼻歌交じりで……。
「かねこ工房」の第4弾。
通常はこの手のシリーズは第3弾までと決めています。
すでにストーリーがあったり、作品が完成されていても、出版はしていませんでした。
別に特別な理由はありません。ただ、他の作品を出版したいからです。
でも、今回は表紙の写真をしてもらったことと、何となく金子さんに早く幸せになってもらいたくて出版しました。
なんてったって、金子さんのラヴロマンスのお話です。
ちなみに写真は小学校からの親友が撮ってくれました。
偉過ぎて、名前をクレジットできませんが、とても地位の高い人です(以前も写真を提供してくれましたが)。
忙しいのに、ありがとね。コヨーテくん。
2019年作。