5年振りに、俺はお盆の少し前から1週間ほど滞在する予定で、東北地方の山間の、名も無き町にある実家に帰った。
大学卒業後、大手ゼネコンで主に国内や海外のダムの受注を仕事として、毎日毎日全国の過疎地に飛び回っては、知事や役人、地方議会議員の接待に追われる日々。
それでもまだ20代の頃はよかった。仕事がわからない分だけ、単純に割り切って一生懸命にやれた。それに、それなりの野心もあった。
しかし、30歳を過ぎて、バブル経済が崩壊した後、自分自身のことを見つめ直しているうちに、これ以上仕事を続けていく気になれなかった。そして、自分の故郷にダムが建設されることが決まり、俺は会社に辞表を出した。
実のところ、会社の同僚で真剣に付き合っている美樹の裏切りが俺にそう決心させたのだと思う。
久し振りの故郷は家族や友人を含め、みな優しかった。この地に自然を壊してダムを造ろうとしている俺なのに。
そして、俺は実家で偶然に兄貴の再婚相手となる女性と会って驚いた。
「こんにちは。お久し振り」
遠藤優子。俺の高校までの同級生で、元恋人だった女性。
その優子が兄貴の婚約者だなんて……。
この作品も元々は脚本だったものを小説に描き直したもの。
ドラマ用とラジオドラマ用がありました。
作品の中で、ラジオのヒットチャートの音楽番組が出てきます。
私が中学・高校時代は勿論ネットはなく、みんな深夜ラジオを聴いて、それが次の日の話題になっていました。
そして、自分の好きな曲をリクエスト番組で上位にしたくて、リクエストハガキを書いたり、ラジオの前で祈ったり。
レコードは高くて買えないので、ラジカセで歌を録音するためにスタンバイさせていました。
で、失敗したり。
今では考えられない時代でした。
今は好きな時に好きなだけ、音質の良い音楽が聴ける時代。
それが当たり前。
いい時代です。
でも、とても不便でしたが、しっかりと思い出として残っています。
カセットテープも残っています。
いつかそんなお話を書いてみたいですね。
きっと若い人はポカ~ンとするとは思いますが。
多分2000年作。