幸せの椅子           (2021年11月出版)

 俺は幼い頃、両親に捨てられて、児童養護施設の最悪な環境で育った。そして、25年間、ずっと不幸のスパイラルから抜け出せないまま生きてきた。

 なぜ不幸から抜け出せないのか。理由は明らかだ。幸せな者達がもっともっと幸せになろうとするからだ。その時その時の『幸せの椅子』の数は限られているというのに。我が物顔で貪欲に人を押しのけてでも座ろうとする。

 俺はヤクザの息がかかった闇金から金を借りたまま行方をくらましたが、パチンコ屋で清掃の仕事中にやつらに見つかってしまった。

 そして、激しい暴力を受けた上に、ある介護施設で補助として働き、理事長やその家族のゴシップとなるような情報を探れと脅された。すでに電話をして、明日面接を受けることになっている、とも。

 理事長は多くの支援者により今度の市長選に立候補する動きがあり、現市長派がそれを恐れて、市長の旧知の仲だった組長に泣きついてきたというのだ。

 結局、俺はそうするしかなく、『菅原亮太』という偽名で働き始めた。

 しかし、理事長も、その娘で施設長のかなえさんも、ここで働く人達も、皆いい人ばかりだった。おかげで、俺の悪心は徐々に浄化されていった。

 そんな矢先、俺はこの施設である高齢の女性と再会した。それは幼い俺を捨てた実の母だった。母は重い認知症を患って、この施設に入所していた。しかも、自分のことも、俺のことも、まるで覚えていなかった。そして、こともあろうに、母は俺を、元ヤクザで亡くなった父親と思い込んだ。

 恨んで憎んでいた母との再会に、俺は気が狂うほどに動転した。

 やがて、市長選が近付くにつれて、ヤクザの脅迫はエスカレートして、遂には理事長の大切な孫の裕司君まで誘拐された……。


 この作品は長編小説です。

 多分今まで書いた作品の中でも1、2の長さだと思います。

 やはり1年に1回くらいはこうした長い作品を書いて、出版しないといけませんよね。

 内容はとても重いですが、テーマは「再生」。

 これは私の全ての作品のテーマでもあります。

 ただ、今回内容が内容だけに書いている長い間、クラ~い気分でいましたが。

 2019年作。