あめ屋2                (2019年5月出版)

「もう、こんな時に夕立ちだなんて……」

 悦子さんはつい独り言で声を荒げました。

 悦子さんは5歳の一人娘めぐちゃんとつい最近、この街に引っ越してきました。

 1ケ月前に夫と別居後、友人の紹介で今の会社の事務職として働き始めて、その会社近くのアパートで暮らし始めました。

 しかし、昨日協議離婚が成立し、慣れない仕事や初めての街での忙しい毎日に追われる上に、娘と暮らす将来の不安から、いくら悔やんでも悔やみきれないことをしてしまいました。

 今朝、保育園に送り届ける途中、めぐちゃんに手を挙げてしまったのです。

 水たまりが大好きなめぐちゃんは水たまりに夢中になって、悦子さんに何度も注意されても、楽しそうに水たまりを踏んで遊んでいます。

「いい加減にしなさい! パパもめぐも大嫌い!」

 そして、悦子さんはめぐちゃんを押さえつけて、その小さな頬をぶったのです。

 どうしてあんなことしたんだろう……。

 自分は絶対にあんなことだけはしないと、固く誓ったはずなのに……。

 

 ふと悦子さんの目の前に、ログハウス調の小さな建物が見えました。看板には、「あめ屋」と書かれています。

 あめ屋? 一体何のお店だろう……。

 悦子さんはちょっとの間だけ雨宿りをさせてもらうために、店の軒下に逃れました。

 すると、ちょうど中から店主のすずさんが開店準備のために、大きなカエルの置き物を持って現れました。

「あっ、いらっしゃいませ」

 いつもの優しいまなざしと、可愛いエクボを浮かべながら……。 


 老舗の雨具専門店「あめ屋」の第2弾。

 かつて辛い想いをした女性が母親となり、今度はその辛い想いを自分の大切な娘にしてしまいます。

 そして、偶然に「あめ屋」を訪れて、店主のすずさんと出逢います。

 今回も「あめ屋」で購入した雨具とすずさんが贈ったあめ玉が、物語をより一層温かくて味わい深いものにしてくれています。

 表紙は今回もみずきさん。

 何というか、「うまい」というより、絵が楽しそうなんですよねえ。

 まっ、本人も楽しそうな人ですけど……。

 怒られるな、こりゃ……。 

 2018年作