あかりのあかり1         (2022年4月出版)

 すっかり陽が暮れた頃。

 まるで夜と月を待ちわびたように、入り口がアーチ状になっている古い2階建ての洋館の1階が店を開けます。

 店の入り口にあるガス灯にぼんやりと、ほんのりとした明かりを灯しながら。

 「あかりのあかり」。

 この店の名前です。

 店主はあかりさん。24歳の女性です。亡くなった祖父から店を受け継いで3年になります。

 この店は「明かり」の専門店です。ですので、明かりに関するものがたくさん置かれています。

 照明器具や電気スタンド、蛍光灯やろうそくやアロマキャンドル、ランプやランタンだってあります。ただ、全部あかりさんの趣味で集めたものですので、他の店にはない珍しいものばかりですが。

 午後6時過ぎ。

 さて、街が暗くなってきました。そろそろお店が開く頃です。

 今日は一体どんなお客さんが来てくれるかな……。

 あかりさんはいつものように微笑みながら、店の入り口にあるガス灯に火を灯しました。

 

 時計の針が夜10時を少し回った頃。

 哲也さんは引っ越してきたばかりのこの町の商店街を右往左往していました。

 参ったな。何処にも電球を売っている店がないぞ……。

 つい1時間前、哲也さんは奥さんのまなみさんとこの街のアパートに引っ越してきました。

 築50年以上の6畳一間のアパートです。そして、居間の天井にぶら下がっている白熱電球をつけて荷物を運んでいたのですが、不幸にもそれが突然切れてしまったのです。

 哲也さんはまなみさんをアパートに待たせて、かれこれ30分異常も電球を買いにあちこち探しているのですが、なかなか見つかりません。

 そんな時、ふと道を挟んだ向こう側に、外のガス灯がほんのりと揺れている建物を見つけました。

 何だろう。あの建物は……。

 哲也さんはオレンジ色の明かりにまるで吸い寄せられるように、その建物に足を向けました。


 昨年、深夜にユー・チューブで焚き火を何度も観ていた時期があり、それがヒントになって生まれた作品です。

 その後、3作まで無事に書き終えました。

 夜に映える仄かな火はいいですよねえ。

 心が何となく落ち着きます。

 だからと言って、決して部屋の中で1人ろうそくに火を灯すようなことはしませんが。

 でも、根っからの夜型人間なので、やっぱりいいものです。

 作品が圧倒的に夜を題材としたものが多いのは、そうした理由からなのでしょう。

 夜、バンザイ。

 2021年作。