20代後半のある男が1人、大きな麻のずだ袋を引きずりながら、雪山を登っています。
時折ものすごい吹雪が視界をさえぎり、行く手をはばみますが、それでも男は全身雪まみれになりながらも、一歩一歩登り続けました。
何かを思いつめた硬い表情。
そして、沈んだ眼差しで。
しばらくして、山小屋にたどり着いた男は、そこに身を寄せました。
山小屋と言っても、子供が作る秘密基地程度の古いあばら小屋で、中はせまく、何もありません。
それに、あちこちのすき間からは容赦なく粉雪と風のかん高い口笛が吹きこんできます。
そして、そこは男にとって思い出の場所でした。
その夜、小屋の中で一晩を過ごした男は、次の日、その山小屋の隣りに雪のいえを作りました。
いえの中は意外と広く、雪のテーブルやベッドや換気用の煙突もあります。
そして、人懐こくて明るいうさぎ。
理屈っぽいたぬき。
子ども想いのクマなど、森の動物たちとの交流。
雪女との出会い。
これらを通して、男は笑顔を取り戻しました。
そして、再び自分の力で生きていこうと誓いました。
亡くなった親友との思い出の山小屋にたどり着いた男。
当初男の表情は硬くて暗く、そしてある覚悟をもっていました。
ところが、男のところにやってくる動物たちは、そんな男の心など知る由もありません。
勝手に仲間だと思い込み、頼みごとをしたり、スキー大会にも参加させたり。
やがて、笑顔を取り戻した男の心にも変化が表れます。
これは、童話の要素に大人の話を加えた作品です。
「おとな文学」といった感じで。
2010年完成。
これは以前WOOKで出版した作品の再出版です。
それに合わせて、表紙も新しく作りました。
ずっと早く再配信したかったのですが、表紙のイメージがなかなか浮かばなくて……。
イラストは、みずきさんに描いてもらいました。
絵自体がとても楽しそうですよね。
それぞれの雪に表情があって。
イメージに近い絵を描いていただいたので、急遽予定を変更して再出版しました。
いろいろな面で、とても才能豊かな人です。
あまり褒め過ぎると、調子に乗るのでここまでです。