あかりのあかり3        (2024年3月出版)

「……ここには薪がありますか?」

 仕事帰り、ふと立ち寄った明かりの専門店「あかりのあかり」で、ツナグさんは店主のあかりさんに、何となく尋ねてみました。

 ツナグさんは岩手県出身の21歳の男性で、現在食品加工の工場で働いています。

 10年前、そう、あの東日本大震災で、彼の人生は大きく変わりました。

 通っていた小学校を失い、両親と兄を失くした彼は、叔父を頼って、故郷から遠く離れた地で暮らし始めました。

 叔父家族のお陰で、何不自由のない生活を送ることが出来ましたが、心の中では家族を失った悲しみが決して癒えることはありませんでした。

 そして、高校卒業後は叔父の家から離れて、他県の会社に就職し、3年目になります。

 10日前、ツナグさんのアパートに封筒が届きました。

 差出人は、かつての故郷の小学校の担任の先生。中には4通の古い封筒と便箋、そして100枚ほどの故郷の写真がありました。

 手紙の中で先生は、小学校5年生の時に宿泊学習のホテルで書いた『10年後の自分へ』の手紙が自分の元に届いたので、同級生3名に連絡して渡してほしい、と書いていました。

 そして、唯一あの震災で亡くなった同級生の少女・ホタルさんのことにも記していました。

 4人の同級生にとって、特別な存在だったホタルさん。

 ホタル……。

 ツナグさんはホタルさんの笑顔を思い出しました。

 そして、今でも忘れられないあの出来事も……。

 早速、ツナグさんは先生の手紙に書いてあった旧友に連絡をとり、久し振りに会うことになりました。

 そして、その前日、たまたま近くを通り掛かったツナグさんは、店の外のガス灯の、ほんのりした明かりに吸い寄せられるように、店に足を運んだのです。

「はい、あります。こちらにどうぞ」

 店主のあかりさんは微笑みながらそう言うと、ツナグさんを店の奥に案内しました……。


 今年になって、再び大きな震災が発生してしまいました。

 そして、多くの尊い命が失われました。

 住居を失い、未だに避難所等で不自由な生活を送られている人もたくさんいます。

 1日でも早く復興し、未来が描かれる様な、そんな日々が訪れることをお祈りしております。

 そして、やはり3月になると、どうしてもあの東日本大震災のことを思い出さざるを得ません。

 それでも、あれから10年以上も経っていて、新たな不幸が訪れると、どうしても遠い過去の不幸は忘れがちになってしまうのは仕方がないことかもしれませんね。

 今の10代の子達は、東日本大震災なんて記憶にない人の方が多いですから。無理もありません。

 でも、岩手県出身である私は、せめてあの震災の物語をこれからも作り続けていきたいと思います。

 そして、それが私の使命のような気がしています。

 それを発表するか、しないかは別にしても、書き続けていかなければ。

 今年も改めてそのことを心に決めたところであります。

 2021年作。