ヴォイス~神の声を持つ少年~     (2018年5月出版)

 サトシは小学校6年生。テレビドラマや映画、CMで天才子役として活躍していた。

 サトシには役柄の性格や特徴をつかむと、一瞬でその子になりきれるという特殊な能力があった。

 それは笑顔や無邪気さやお涙だけの子役特有の演技ではなく、時には鬼気迫る演技で共演する大人の俳優や監督、現場スタッフらを震え上がらせた。

 特に実在した人物を演じる時は、その人そっくりの声になった。

 しかし、その類まれな才能とアクの強さから、時にはベテラン俳優の演技にも毒舌を吐いたりするので、あちこちの現場で「生意気だ」と評判が悪かった。

 サトシがこのようになったのは、家庭環境が影響している。

 父、母、弟のごく普通の4人家族だったが、サトシが売れ始めてからは家族の歯車が狂い始めた。

 大金を手にした父と母はすっかり人が変わり、次々と事業に乗り出しては失敗したり、金遣いが荒くなったりして借金を重ねた。

 そして、2人とも自己破産の末、協議離婚。

 サトシと弟のユタカは幼いこともあって、母親と生活することになった。

 しかし、不幸はまだ続いた。

 ユタカが交通事故に遭い、脳に重い障害を受けて意識不明となったのだ。

 医師からは回復の見込みはほとんどないと告げられた。

 すると、母は幼い子供を捨てて、若い男と蒸発した。父もどこにいるのかわからない。

 以来、サトシは寝たきりの弟の面倒を看ている。

 そして、笑顔を忘れた少年となった。

 そんなサトシが突然マネージャーのシバハラとともに会社から解雇された。サトシのギャラをピンハネした社長の頭にヤケドを負わせたのが原因だった。

 そんなサトシにシバハラは新たな仕事を見つけてきた。

 そして、ファストフード店でパソコンを開き、ホームページを見せた。

 そこには、こう書かれていた。

 『ヴォイス~声の仕事、募集しています~』


 昔の作品の一覧表を見ていたら、何となく気になる作品があって、つい読み直して、「面白そうだな」と思い、今回出版しました。

 自分の作品には珍しい、性格が少し歪んだ(?)少年が主人公です。

 天才子役ですが、冷淡で毒舌。大人に根強い不信感を持っていて、可愛げがないというか、なんというか……。

 でも、弟想いで、友達想いでもあります。

 だからこそ、書いていて、とても楽しかったことを覚えています。

 大学浪人時代、映画の主演オーディションに合格し、半年間演技指導を受けていたこともあり、芸能界に憧れていた時期もあるので。結局、映画の企画自体が潰れてしまいましたが……。 

 それにしても、この作品、約10年前に書いたものみたいです。

 ん~。なんともはや……。 

 2009年作。