かつてムジャキな子供だった人達への童話18(2023年10月出版)

おばあちゃんが教えてくれたこと

 8歳のぼくに、おばあちゃんは教えてくれた。

 たくさん教えてくれた。

 やさしく教えてくれた。

 どうしておばあちゃんの顔にシワがたくさんあるのか。

 どうしておばあちゃんの腰が曲がっているのか。

 どうしておばあちゃんは早起きなのか。

 若い頃に戻りたいか。

 その他、たくさん教えてくれた。

 そして、生きる、ってことも。

 生まれてきた意味も教えてくれた。


 若い頃は年配の人の話を聞くのが、「面倒くさい」とか、「押しつけがましい」とか、「聞いててつまんない」とか、「説教くさくて耐えられない」と思っていましたが、そこそこの年齢になると、自分よりも様々な経験をしているのだから、「聞いてみたい」と思うようになりました。

 まっ、聞いててもつまんない人も大勢いますが。

 で、どうせなら身近な人の話をもっと聞いてみたかったと思っています。

 祖父母とか、父母とか。

 その人達の人生にどんなドラマがあったのか、とか。

 きっと一人の人間が長い年月生きてきたのですから、いろんなことがあったに違いありません。

 祖父母も父母もみんないなくなってしまったので、もう聞くことはできませんが、やはり後悔ですね。

 もっとも、生きている時は存在が近すぎて、真面目なことを聞くのが何となく気が引けたでしょうけど。

 でも、今となっては聞いてみたかったです。

 残念。 

 2010年(?)作。

ぼくは絶対眠ってない

 ぼくは絶対眠ってない。

 ホントだよ。

 眠れるわけないじゃないか。

 みんなが大変なこの時に。

 みんながせっせとがんばっているのに。

 眠れるわけがないよ。

 まったく……。 


 これは誰かが真面目な話をしている最中、何故か眠くなってしまい、その眠気とたたかっているのがモチーフです。

 よくありますよね。

 例えば授業中も先生が熱心に説明しているのに、何故か睡魔に襲われることも。

 本人は眠ってはいけないと思いつつ、ついコクリコクリとやってしまう。

 で、目を覚めつつも、またコクリコクリとやってしまう。

 目を大きく見開いても、やっぱりコクリコクリ。

 第三者からすれば、とてもおもしろい光景です。

 本人にしてみれば、必死なんでしょうけど。

 でも、やっぱりおもしろいです。

 2012年(?)作。

私、音楽になりたい

 ある国に、とてもきれいなプリンセスがいました。その美しさといったら、誰もが時間を忘れて見とれるほどでした。

 そんなプリンセスが何よりも大好きなことは、フルートを吹くこと。

 特に夜、ベランダに立ち、星空をながめながら吹くのが一番の楽しみでした。

 プリンセスが奏でる音色はとてもきれいで、それを聴いた城の人たちはもちろん、国民、そして森の動物や小さな虫までも、みんなが幸せな気持ちになりました。

 そんなある夜、プリンセスがいつものようにフルートを吹いていると、美しい歌声が聞こえてきました。

 その声の主は、プリンセスに恋した城の門番の兵士でした。

 2人は次の日も、その次の日も2人だけの音楽を楽しみました。

 ところが……。


 この作品は2種類あって、もう一つは「私、歌になりたい」です。

 内容は似ていますが、これもいずれ世に出したいとは思っています。

 亡くなった後も、大好きな音を奏でながら生きられるって素敵ですよね。

 肉体がなくても、生き続けられる。

 しかも、大好きな音楽になって。

 そんな物語です。

 2002年作。

虫たちの演奏会

 ぼくはお盆に家族といなかに住むおばあちゃんの家に行きました。

 するとね、おばあちゃんが庭の草むらで、輪切りにしたナスやきゅうりをくしざしにして、地面にさしていました。

「おばあちゃん、何してるの?」

「これかい? こうして大好物の野菜を用意してあげると、今日の夜は虫たちの演奏会がきけるんだよ」

 ホント?

 そして、その夜、ぼくとおばあちゃんが、えんがわでスイカを食べていると、虫たちの演奏会がきこえてきました。

 でも、ぼく、おばあちゃんにしちゃいけないと言われたのに、どうしても虫たちの演奏する様子が見たくて、次の日の夜に草むらにかくれて、虫たちの姿を見ようとしたんだ。

 ところが……。


 秋が好きで、夜が好きな私にとって、月と虫の音は心を落ち着かせる精神安定剤のようなものです。

 都会でも虫の音は聞こえますが、やはり田舎は音量と音質と種類が多いですよね。

 そして、それに優しく包まれるような感じで眠る。

 だから、田舎ではぐっすり眠れるような気がします。

 秋は涼しいし夜が長いので、虫たちも張り切って演奏してくれます。

 どうかこんな穏やかな毎日がずっと続きますようにと、心から祈るばかりです。

 2001年作。