「叔母の墓参りに行ってくる」
その言葉に偽りはなかった。
実際、叔母の3回忌は子供が急に熱を出して行かれなくなったので、できるだけ早く墓参りを済ませたかった。
大好きな叔母に会いたかった。今の自分を叱ってほしかった。過ちを犯そうとしている私を。
私は今、夫と子供を裏切ろうとしている。
3ケ月前、かつて愛した人と偶然に再会した私は、何度も彼と夜を重ね、彼の誘いを受け、家庭を捨ててロンドンに旅立とうとしていた。
62歳で亡くなった叔母は一生独身だった。母の4歳下で、母が私が高校1年生の時に亡くなって以来、ずっと母代わりだった。
叔母は背が高くて、色白の美人で優しく、料理だって得意だった。東京の有名大学を卒業し、欠点を探すのが苦労するくらいの奥ゆかしくて、質素な女性だった。
40歳の時に、なぜか勤めていた大学の図書館を辞めて、花屋を始めた。
しかし、なぜ一生独身を貫いたのかは不思議だった。
1泊2日で叔母の墓参りに出掛けた私は、彼と再び落ち合うことを約束し、1人で叔母の眠る墓地に向かった。
すると、墓前には季節外れの色とりどりのかすみ草が供えられていた。
かすみ草は叔母の大好きな花だった。
もしかしたら、もう二度とここを訪れることはないかもしれない……。
そう思いながら、私は後ろ髪をひかれつつ、その場を去った。
そして、バスが到着するまでにはかなり時間があったので、駅までの長閑な田舎道を去った。ゆっくり歩くことにした。
すると、その途中で古いボンネットバスを改造した移動式カフェがあった。
私は近くにいた70代のマスターの勧めもあって、中で休むことにした。
中はとても狭く、テーブル席が2つだけだったが、その奥には今ではすっかり珍しいジュークボックスが置いてあった。物凄い存在感を発揮して。
「このジュークボックスで思い出の曲を聴いていると、当時にタイムスリップできるそうなんです」
戸惑う私に、マスターはチャーミングな笑顔でそう言った。
そして、そのジュークボックスの中には、私にとっての思い出の曲である佐野元春の『サムデイ』があった……。
久々の新作発表です。
本当は1年に12~15くらい新作が生まれているのですが、発表が全然追いつかない状態です。
なんとかしなくちゃと思うのですが……。
さて、誰でも思い出の曲があり、ふとそれを1人でしんみりと聴いたりすると、当時のことを思い出すことってありますよね。
それがこのお話を作るきっかけです。
それにしても……。
ジュークボックス。
ボンネットバス。
『サムデイ』。
もうすぐ平成も終わるというのに、なんか昭和っぽいですよねえ。
感傷的なノスタルジーも感じてしまいます。
この作品も将来的にシリーズ化するつもりです。
いつか、ですけど。